09
私は皆が寝静まった後、若手のお笑い芸人が出ている深夜番組を見ながら缶ビールを呑んでいると、気配も足音もなく後ろから佐助の声が降ってきた。
「まだ起きてたの」
「佐助は今帰ってきたの?」
そう言うと、驚かれた。家主の私が気づいてないとでも思ったのだろうか。どうせ佐助のことだから、近所の見回りでもしていたのだろう。(ついでに敵将達の部屋も覗いてきたんだと思う)
「あは、バレてた」
「今日は見なかった事にしてあげるから、ここに座りなさい」
ソファーをパンパンと軽く叩いて座るように促すと、溜息を吐いたあとに遠慮がちに私の隣へ座った。
さすがにビールは飲めないだろうから、日本酒をグラスに注いでやる。
「常温でよかったかな」
「いや、いらないってば」
「新潟の地酒、辛口だけど飲みやすいはず」
私がお酒の紹介をすると"聞いてないし"と返し、グラスに口をつけた。てっきり毒だなんだと騒がれると思ったから、すんなりと飲んだ佐助に驚いた。
「旦那が、なまえちゃんのこと信じてるっていってたんだ」
「うん」
「だから俺様も信じることにした。あんたが悪い人じゃないのくらい分かるからさ」
"信じてる"。たったそれだけの言葉なのに、なんだか無性に嬉しくなって、缶に半分程残っていたビールを一気に煽ると"一気に飲んじゃだめだってば!"と叱られた。
「明日、みんなでお出かけしよっか」
「まさか全員つれていく気じゃあ」
「そのまさか、公園っていう広場みたいなところがあるから、身体動かしにいこ」
そういえば、気を使わせてごめんね、と返ってきた。私もついこの間までバイトに明け暮れていて運動する機会なんてなかったから丁度よかった。
しばらく日本酒を酌み交わしながら談笑していると、小十郎がやってきて早く寝ろと凄まれたのでお開きとなった。
「今度は小十郎も一緒に飲もうね」
「いいから早く寝るぞ」
そうして三人で二階まで上がって、それぞれの部屋へ入った。適度にアルコールを摂取したお陰ですんなりと眠りについた私は、天井裏から降り注ぐ視線に気づくことはなかった。
「おはよう佐助」
「おはよ、今お弁当つくってるところ」
話しが早いわね、と微笑むと慶次が"なんだい隠し事かい?"とニヤニヤしながら寄ってきた。
「おはよう慶次、今日は皆でお外に行こうと思ってて」
「そりゃいいや!俺もそろそろ身体を動かしたかったところなんだよ」
朝食を食べる頃には、その話しは皆にも伝わっていて、皆のワクワクがこちらにもひしひしと伝わってきた。
「してなまえ殿、どちらに向かわれるのだ?」
「公園」
「佐助!こーえんとは何だ!」
今は皆で公園に向かっているところだ。色とりどりのTシャツやポロシャツを身に纏った彼らは、色々な意味で目立っていた。
色もそうだが頭髪が派手だし、体つきもそのへんを歩く男性とは比べ物にならないし、全員が男前だ。おまけに声もいいときた。これは近所で有名になるな、と他人事のように考えた。
公園につくと、休日だからか家族連れやお年寄りがたくさんいた。木陰にレジャーシートを敷いて一先ず全員座らせた。
「いいですか、絶対に他人様に迷惑をかけないこと。それを誓えないものは帰ってもらいます」
幸村と慶次のあたりから、ゴクリと固唾を飲む音が聞こえたような気がした。
そうして持参したサッカーボールやバドミントンのセットなどを渡すと武将達はワーと走っていった。
残ったのは小十郎と元就だけだ。否、小太郎もだ。
「小太郎、そんなところでなにしてるの」
「≪見張り≫」
そんなところ、とは木の上である。何をしてるのかと思えば、口パクで見張りとだけ答えた彼は、周囲に意識を張り巡らせているようだった。
内心で少しだけ笑ったあとに例の如く"おいで"をするとあっさりとこちらへ降りてきた。
「なまえは行かぬのか」
レジャーシートには座らずにすぐ近くの日なたで胡座をかいて座る元就に、今はいい、とだけ答えた。
暫く小十郎と小太郎と談笑していると佐助が戻ってきた。(小十郎が読唇術ができるのには心底驚いた)
「どうしたの?」
「もうあいつら俺様ばっかり狙うから疲れた」
そう言ってぐびぐびとスポーツドリンクを飲む佐助。どうやら今までサッカーをしていたようだが、みんなゴールではなく佐助の顔面を狙ってくるとか。
「現代の蹴鞠ってあんなに激しい遊びなんだね、本当に子どもでもできるの?」
「あんたらサッカーをどんなものだと思ってるの」
今度は佐助も交えて談笑していると、暫くして遊んでいた全員が戻ってきた。
「全員汗ふいてこれを飲みやがれ。さ、政宗様はこちらです」
小十郎と小太郎が手分けしてタオルとスポーツドリンクを手渡していく。
暫く休憩して、幸村の腹の虫が鳴いたところでお弁当を食べることにした。
「外でご飯食べるといつも以上に美味しく感じるよね」
私がそう呟くとお弁当を作った張本人の佐助は、ありがとう、と微笑んだ。なんだ、普通に笑えるじゃない。
始めて会った時のことを思い返し、あの時の貼り付けたような笑顔ではなく本物の笑顔が見れたことが嬉しくて、私も大きく微笑んだ。
みんなで食後の運動というなのバドミントンデスマッチを終え(勝者は小太郎)、帰路についた。
09遠足
(風魔、あんた加減ってもんを…)
(≪加減した≫)
(俺様本気だしてたのに…嘘でしょ)
(≪フン、≫)
(あ、今イラっとした)
−−−
みんなでピクニックです。
小太郎さんは何でも出来そうですよね。忍組はもっと仲良しにしてあげたい。
カナメ