08





玄関のドアを開けるとそこは不思議の国でした。
という冗談はさておき、お出迎えをしてくれた真田と伊達と長曾我部に荷物を運ぶのを手伝ってもらい、私はリビングへ向かう。すごくいい匂いがしてくるのは、きっと片倉あたりがおいしい夜ご飯を作ってくれているのだろう。
案の定、エプロンをつけた片倉が包丁片手に"おかえりなさい"と振り返った。


「主夫だ…」

「ん?何か言ったか?」

「いいえ何も」


ご飯が出来るまでの間、私は皆の部屋割りとあだ名を考えることにした。
紙とペンを持ってソファーに腰掛けると、なんだなんだと武将達が集まってきた。さっき買い物から帰ってきて疲れているのでは、という心配をよそに、佐助はローテーブルに皆の分のお茶を置いた。


「部屋割りを考えようと思ってるの」

「無論我は一人部屋だろう?」

「ナリちゃんは小太郎と一緒かな」

「ちょっと待て」


途端、長曾我部から制止の声があがる。
逆トリップの王道でいうと、ナリちゃんは長曾我部と一緒の部屋だと思うけど、私は静かな物は静かな物同士、大きな物は大きな物同士のほうが過ごしやすいと思う。
しかし長曾我部はやはりナリちゃんとがいいのだろうか?


「"ナリちゃん"ってなんだ」

「え、そっち?」


長曾我部が声をあげたのは、部屋割りのことでもなんでもなくて、ナリちゃんの名前のことだった。


「やっぱりナリちゃんじゃ可愛すぎるかな?じゃあ元就でいっか」

「違ぇ!そういうことじゃなくて!」


そう言ったあとに、あーとかうーとか唸っている長曾我部。なんだ、なにが言いたいんだ。
そのあと、あっ、と閃いた。


「長曾我部も名前で呼んでほしいの?」

「ばっ!違え!そんなこと!・・・ある」

「なんだい元親にも春がきたのかい?」


赤面した長曾我部に慶次がトドメをさしたところで、片倉に"飯ができたぞ"と呼ばれた。
みんなで頂きますをして、さて食べようと思ったら長曾我部と伊達に睨まれる。(なぜ伊達まで・・・)


「元就の名前を呼べて、俺の名前を呼べないなんてこたぁないよな」

「 Heyなまえ、俺の事も名前で呼べよ」

「そ、某も名前で呼んでほしい、」


なんだなんだ、君たちは名前で呼ばれたい年頃なのか。隣にいる慶次が"恋だねえ"なんて呟いてるけど、恋ではないと思うよ。所謂"あいつだけ狡い"って感覚だろう。


「はいはい元親に政宗に幸村、とっととご飯食べましょうね」


そういえば、パァと表情を明るくした彼らは、今度はご飯に夢中になる。名前一つでこんなに幸せそうな顔をする彼らに、私の心がほっこりした。
ああそんなにガツガツ食べたら喉につまらせ…って言ったそばから幸村が噎せ返った。溜息を吐く佐助に、溜息吐くと幸せ逃げるよ、といってやれば更に溜息を吐かれた。佐助には後で酒でも飲ませてやろう。

ご飯も食べ終わり食器を洗っていると、後ろから神妙な面持ちの片倉に声をかけられた。


「政宗様のことを名前で呼んでいるんだ。家臣の俺のことも名前で呼んでくれ」


なんだそんなことか、と笑ってやれば片倉の眉がピクッと釣り上がったのですぐに笑いをやめる。こわいこわい。


「小十郎、これでいい?」

「ああ、我儘を言ってすまねぇな」

「いや。でも小十郎って長いうえに小太郎と似てるんだよねえ」


そういえば、好きに呼んでくれて構わねえ、と言って私の洗っていた食器を奪われてしまった。後は小十郎がやってくれるだろうから、私は再びソファーに腰掛けた。


「みんな、部屋割り決めたからこっちへおいで」


私が"おいで"と言ったや否や、小太郎が私の横に降ってきた。また天井裏にいたのか、あそこは佐助曰く狭い臭い汚いらしいけど、大丈夫なのかしら。(今度佐助に天井裏の掃除をさせよう)


「こんな感じです」


ローテーブルに部屋割りを書いたコピー用紙を広げると、皆が罰の悪そうな顔をする。ああそうだった、と私はオルガンのそばに置いてある紙袋の中身を皆に渡す。


「こっちの文字が読めない君達へ、私からの贈り物です」


さっき広げたコピー用紙の上に、こくごドリルとさんすうドリルを置く。幸村がワクワクした顔で迫ってきたので、手っ取り早くドリルの説明をしてやった。


「というわけで、佐助と小太郎と政宗はさんすうドリル、それ以外の物はこくごドリルでお勉強しましょう」


そういうと幸村は"べ、勉学…"と俯いてしまった。
一日一ページ進めること、出来あがった者から私に見せにくること、と説明してから私は途中だった部屋割りの発表を始めた。


「一階の和室に慶次と元親、縁側がついてる方は元就と小太郎ね」


慶次と元親が"わかった"、元就が"神子が望むなら"と言い、小太郎がコクリと頷いたのを見て次に進む。


「二階の手前の洋室に幸村と佐助」


幸村は"あいわかった"と頷く。佐助が何か言いたそうだったが、後だ。


「その隣に政宗と小十郎」


政宗と小十郎は静かに頷くと、佐助が手をあげる。(昨日、意見のあるものは手をあげること、と言ったのを覚えてくれていたようだ)


「はい佐助くん」

「俺様、夜のうちはこの辺りの監視をしたいんだけど…」

「却下」


他に意見のある者は、ときくと今度は政宗が手をあげる。政宗くん、と呼ぶと少し嬉しそうな顔をした。やっぱり名前で呼んであげて正解かもしれない。


「小十郎に夜中の見回りを任せたい」

「却下、夜は全員部屋でおとなしく寝ること」


そういえば佐助も政宗も観念したようだった。確かに敵国の武将と同じ屋根の下で夜を共に過ごすのは心配だろう。しかし私の目の黒いうちは、殺生なんて起こさせません。絶対。


「というわけなので、皆さん今から休戦協定を結んでください」


そう言って、画用紙と筆ペンと朱肉を小十郎に渡す。小十郎は少し渋ったが筆ペンを使いミミズのような字を書いていく。(ほとんど読み取れないのが悔しい)


「ここに全員拇印すること」


そう言うと、武将達はお互いに顔を見合わせ、最後に苦笑いを交わして、順番に拇印していった。
最後まで佐助は渋っていたが、見つめあいの結果、佐助が目を逸らして拇印した。


「私がいる限り争い事は禁止だからね。協力してくれてありがとう」


そういうと、佐助もどこかスッキリしたような表情をして"お風呂いってくる"と幸村を連れてリビングを出ていった。
"Shit!一番風呂とられたぜ!"と政宗が声をあげたのをきっかけに、皆はまたそれぞれの持ち場へ戻っていった。



完成した誓約書を暫く眺めたあと、テレビの上に画鋲で貼り付けておいた。




08親睦
(佐助、俺はなまえ殿を信じている)
(うん、旦那が悲しむようなことはしない)
(なまえ殿も、だろう?)
((旦那の目、笑ってないや))



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これから日常編へと突入します。

カナメ



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