07
「さあ、ここがジョスコです。さっきも言ったとおり騒ぐ者は問答無用で置いて行きます」
結局、(真田と片倉以外で行われた)公正なジャンケン勝負の結果、猿飛と前田と毛利が選ばれた。猿飛や前田はただの運だが、毛利は相手の弱みをちらつかせて勝利した。流石智将と呼ばれているだけあるな。まあ弱みと言っても、伊達の衆道話しや長曾我部の姫若子時代の話しばっかりだったから、私も知ってたんだけどね。
「猿飛は忍ぶ事、前田はナンパする事、毛利は勝手に何処かにいなくなるの禁止ね」
「あはー、忍びたくても忍べないんだけどねー」
禁止事項なんかも付け加えると、猿飛がだらしない顔をした。
とりあえず、三人も(言わずもがな風魔、長曾我部、毛利)増えたお陰で足りなくなった衣料品を中心に、買い進めていく。
日用雑貨コーナーで見つけた低反発枕を毛利が大変気に入った様子だったので買ってあげると、礼を言う、と顔を赤らめられた。なんだかこっちが恥ずかしいじゃないか。
前田は女の子に話しかけたくてウズウズしてたけど、途中で買ってやったアイスに夢中で今はそれどころではない。もう一つ買って!
、とせがまれた私は仕方なしに買ってしまった。どうも頼られたりするのに弱いらしい。
「ねーねーなまえちゃん、俺様には何か買ってくれないの?」
低反発枕を抱きしめている毛利とアイスを頬張っている前田を見て微笑ましい気持ちになっていると、猿飛が口を開いた。どうやら自分だけ何も買ってもらってないのが気になるらしい。そんな事言ったって、低反発にもアイスにも目もくれない猿飛が、一体何に興味があるのか分からなかった。
「見るもの全てに興味がなさそうなんだもん」
「えー心外」
猿飛曰く、道ゆく女の子達には興味がある、でも俺様ってばナンパする程飢えてはないんだよね、なまえちゃんで十分って感じだし。だそうだ。
「まあ強いて興味があると言えば、なまえちゃんかな」
「それどういう意味よ?」
「あれ分かんない?なんなら俺様が手取り足取り、」
猿飛の言葉が最後まで紡がれる事は無かった。さっきまで猿飛がいた場所には毛利がいて、馬鹿め、と呟いていた。
「あはは毛利ありがと」
「フン、これも我が神子の貞操を守る為よ」
「うんなんか違うよ」
お礼を言っても斜め上にズレた返答をする毛利。遠い目をしている私の元へ今度は前田が駆け寄ってきた。
「そういえばなまえちゃんって、何で名前で呼んでくれないんだい?」
前田の視線の先には名前で呼び合う仲睦まじげなカップルがいた。いや、なんでって言われても・・・。名前で呼ぶに相応しい関係ではないからだよ、なんてこんな笑顔で詰め寄ってくる前田には言えなかった。でも確かに、一緒に暮らしているのに苗字ってのも変だろうか。
「じゃあ慶次、どうして名前で呼んでほしいの」
名前で呼んであげれば更に笑顔になる前田を見て、こんな顔が見れるなら皆も名前で呼んでやろうか、なんて考えた。
「俺はさ、利やまつ姉ちゃんがいて被るだろ?」
「でも、その"利"や"まつ姉ちゃん"はここにはいない」
「ウッ・・・。そ、それに俺は、氏で呼ばれるような性質(たち)じゃないんだよ」
言葉に詰まった慶次を見てクスクス笑ってみれば、しょげてしまった。大男が小さくなっているのって、なんだかちょっぴり可愛いや。
「なまえよ、我の事は名前で呼ばぬのか」
「じゃあナリちゃん」
「な、なりちゃんとは!おのれなまえめ、我を愚弄しておるのか・・・しかしなまえに呼ばれるならば・・・いやでも・・・」
ナリちゃん(もうこれで決定した)、心の声がはみ出していますよ。こいつ智将キャラじゃなかったのか?
三人でわーわーやっていると、蚊帳の外だった猿飛に、俺様の事は?、なんて怪しい笑顔で聞かれた。ごめんね態と蚊帳の外になんてしてごめんねアハハ目が笑ってないよ怖いや。
「さっちゃん、」
「え?なになまえちゃん聞こえなかったからもう一回言って」
「・・・佐助サン」
くそう、通行人に見えない位置で苦無をちらつかせるのはやめて下さい。両手を上げ"参った"のポーズを取ると、俺様的には呼び捨ての方が良いんだけどな、なんて言われた。
「チッ、じゃあ佐助」
「ええ!そんなあからさまに嫌がらなくても!」
「嘘だよ佐助、ほらもう帰ろう。慶次とナリちゃんも」
私がほんの少しだけ声を張り上げて言えば、満足そうな顔をした三人が頷いた。どうしよう何だかこいつらを可愛いと思ってしまっている自分がいる。
帰ったら、他の人も名前で呼んでやろう、なんて考えながら帰路についた。
07名付け
(それにしてもなまえちゃんって、ほんとに癖になるよね)
(おお!お忍びくんにもやっと春がきたねえ!)
(やっとは余計だよ風来坊)
(フン、貴様らに我の神子は渡さんわ)
((この人が一番厄介だ))
−−−
ナリちゃんごめんね、知的でかっこいいナリちゃんにできなくてごめんね、日輪の神子と幸せになってね(妄想の中で)。
カナメ