06
次の日の朝、起きて来た私を待ち構えていたのは不穏な空気だった。
「ちょっと、朝からなんなの」
低血圧なんだから勘弁してよね、と言えば猿飛から、あはー、と返ってきた。本当に勘弁してほしい事この上ない。
蚊帳の外だった真田に話しを聞けば、猿飛と毛利の意見が衝突し、それに伊達と長曾我部が加わり、更には前田が囃し立て、それはもう凄まじかったらしい。私はそんな時に空気を読まず登場したとか。
「しかしなまえ殿のお陰で、収まりましたぞ」
「収まってない感がバリバリなんですけど」
未だに、猿飛と毛利の間には火花が散っているように見える。それはもう、凄い勢いの火花である。
「で、結局なにが原因で喧嘩になったわけ?」
仲裁に徹していたらしく疲れた様子の片倉に問いただすと罰の悪そうな顔をした。なにか疚しい事でもあるのだろうか、ハッまさか欲求不満でイライラしてるのか?ならばAVの一つでも買ってやらねばなるまい・・・。
「多分、なまえちゃんが考えているような内容じゃないからねー」
あはー、と笑いながら言っても無駄だぞ猿飛。サラッと心を読んだ事は拭えぬ事実である。あー怖い怖い。
「毛利、何があったか教えなさい。家主に逆らうなんて事、お利口な毛利ならしないよね?」
「フン、誰が貴様なんぞに」
「あっそ。私に従う気がないなら、」
出てって、と言った瞬間、周りの武将達の肩が上がったのが伺えた。私の怒声ってそんなに驚く程でもないと思うのだけれど。
しかし智将って、聞き分け悪いのかしら?自分の身を案じているならば、私の言う事に逆らえない筈なのに。あ、もしかして日輪足りてないとか?そうならそうとハッキリ言えばいいのに。
「毛利、もしかして日輪不足?」
武将達は、は?、と声を揃えた。あらあら、どうやら的外れだった様ね。だったら何が理由かしら?さっきは猿飛にはぐらかされたけど、やっぱり欲求不満なのかしら、やっぱりAV必要かしら、どうしようかしら、。
「ふっ、ふふ、ははははは!」
すると突然、何に耐えきれなくなったのか、長曾我部が笑い出す。どうしたんだと聞いても、笑いが最優先しているようで、全然答えてくれない。
「鬼よ、静かに出来ないのか煩わしい」
「ははっ、いや、ふははは!まさか毛利に"日輪不足か"なんて声掛けるとは思わなくてよ!って痛えな!何しやがる!!」
長曾我部が落ち着きを取り戻した頃には、先の不穏な空気なんて何処にもなかった。よし、これで皆上手くやっていけそうね。
「神子よ、先は済まぬ」
「み、みこ?」
ちょ、え、みこって、え?聞き間違いじゃなければ"神子"だよね?どういうこと?
そう伝えれば、我の日輪不足が分かるのは日輪の神子以外にいない、とか。それってあの有名な台詞ですか、我の事を理解できるのは我一人で良いってやつですか、我と神子だけで良いってことですか。
「いやいやいや、毛利がイライラするなんて日輪不足くらいしか無いかなって思っただけ!っていうか神子ってやめてなんか痒い!」
「フン、ではなまえ。我だけの神子となれ」
「うんごめん猿飛にパス」
後ろから、ええ!俺様に押し付ける気!?、なんて聞こえたが無視した。私はさっきからお腹が空いているのだ。長曾我部が笑い狂っている間に出来上がった片倉の料理を前に、そっと手を合わせた。
「いただきます」
あーなまえちゃんズリィ俺も!、という前田の声を聞いて、皆も慌てて席につく。
ああリビングってこんなに狭いんだなあ、と大きな男達に挟まれ思った。(二つのテーブルをくっ付け簡易大テーブルにしたり、折りたたみ椅子を五つ程足したりして、なんとか九人でご飯を食べられる様になった。)
「さあて、今日もお買い物に行くよ」
そう言えば、口に食べ物を含んだままの彼らが、俺も!!、なんて叫ぶもんだから、直ぐに片倉の喝が飛んでいった。
こんな生活も悪くない、なんて思っている自分がどこかにいた。
06手懐け
(それで神子よ、婚姻の儀だが・・・)
(Ha! 残念だったな、なまえなら味噌汁に夢中だぜ?)
(チッ、味噌汁に現を抜かすなど・・・可愛い神子だな)
(毛利、アンタそんなCharacterだったか?)
−−−
日輪の申し子、無事にヒロインと和解(?)しました。
カナメ