05
「・・・おはようございます」
「ん、おはよ」
ああ、最悪な目覚めだ。何故猿飛佐助が私の目の前に居るのだ、しかも馬乗りで。如何やら苦無は突き付けられていないようで、少しホッとした。
「なかなか起きてこないから、大将達心配してたよ?」
安易に、早く起きねえと殺すぞゴルァと目で言われた。
あんた等が起きるの早すぎなんだろ、と言いかける自分を慌てて制し、ムクリと起きあがる。猿飛と視線が交わる。
「色々聞きたいところだけど、とりあえず大将の所行こうか」
またあの胡散臭い笑みを浮かべて、手を差し出される。え?、と問いかければ、早く、と急かされる。
猿飛の手を取ればそのまま強めに握られて、何時の間にか信玄公が待つ部屋の前まで来てしまった。どうやら握った手はこのままで入室するらしい、勘弁してくれ。
部屋に入ると案の定、幸村に騒がれた。破廉恥破廉恥と喚いている幸村を無視して、信玄公に促された通りに座れば(この時やっと猿飛は手を話した)、女中さん達がテキパキと朝餉の準備。未来の食卓や食べ物の話しなんかをしながら食事を終える。それをまた先の女中さん達が片付け、今は食休みと言ったところか。
部屋には信玄公、幸村、猿飛、そして私だ。猿飛は食事中もずっと部屋の隅に立ちっぱなしだった。忍って足腰強いんだなあ、と阿呆な事を考えれば、それを読まれたかのように、猿飛に睨まれた。
「さて、なまえよ。お前はまだ話さなければならぬ事が在ろう?」
「・・・はい」
きたか。恐らく猿飛佐助が言ったんだと思う。
意を決して、全てを話した。信玄公達は物語の登場人物で、名前は勿論のこと姿・声や武器、更には婆娑羅技の事を知っている、と。
お釈迦様の事についてはノータッチだ。私が不死身なんて知られたら、それ以上の事は余り考えたくない。
「ふーん、ほんとかどうか怪しいよね」
「これ佐助やめぬか。なまえ、安心せい。甲斐に居る間はこの信玄が面倒をみる」
「ちょっと大将!」
本当の事を話しても尚、私の面倒をみてくれると言って下さった。信玄公の懐の広さに感動した。と同時に、もう少し人を疑った方がいいのでは、とも思った。これでは忍泣かせだ。
「某も、なまえ殿ならば歓迎で御座ります!」
「旦那まで・・・、」
「はあ、分かりましたよ。でも大将や旦那に何かしようものなら、存在ごと、消す」
消す、
言われた瞬間に身震いした。これが殺気ってやつなのかな、分かりたくもなかった。いやいやこれは武者震いだよ、うん。
「あーあと、大将達のこと名前で呼んでるんだから、俺様も名前で呼んでね」
という訳で、佐助とも表面上では和解して、一件落着である。
「信玄公、幸村、そして佐助、これからお世話になります。どうぞ宜しくお願い致します」
私が深々と頭を下げれば、幸村に慌てて、頭を上げて下されっ!、と言われてしまった。笑って頭上げると、そこにはご満悦の様子の信玄公と、ホッとした顔の幸村、そしてムスッと不貞腐れた佐助。なんだか可笑しくて、声をあげて笑ってしまった。
「アハハ、ごめんなさい。皆が別々の表情だから、つい可笑しくて、」
「別に良い、ワシもやっとなまえの笑顔が見れて安心しておる。のう、幸村」
「は、はい!親方様!なまえ殿の笑顔は、まっこと可憐で御座りまする!」
は?可憐?KAREN??ちょっと待たないか幸村、真っ赤な顔で照れちゃって凄く可愛いんだけど、待たないか。やだなんか痒い、痒いよオカン。
助けを求めて佐助に目をやる。
「何、俺様あんたのお母さんじゃないからね」
読まれた。
でもなんとなく、佐助を纏う空気が柔らかくなったような気がして、また顔が綻んだ。
そして私はめでたく、甲斐の人間として迎えられた。
05.迎えられました。
(そういえば、慶次は?)
(慶次殿なら、今朝方奥州に向かわれた)
(えええ!挨拶してない!)
−−−
慶次は、きっとお野菜を拝借しに行ってます。
カナメ