03
何でこうなったんだろう。猿飛佐助の鋭い質問から逃れた筈の私は、何故か躑躅ヶ崎館へ来ていた。聞けば慶次と来ていた城下は、ここ躑躅ヶ崎館の城下町だったようだ。唯一の救いは、慶次も一緒に居る事。
今は大きな広間で武田信玄が来るのを待っている状況だ。慶次、私、真田様の順で並んで座っている。
屋敷までの道中で、真田幸村とも仲良くなったは良いが、真田様は少し呼びづらい。しかし此れも猿飛佐助に疑われない為、努力している。努力嫌いな私が、こんな事で努力してるだなんて知ったら、元の世界の友人達に頭の心配をされそうだ。
暫くすると、廊下からのっしのっしと足音が聞こえてきた。ああ、緊張してきた。相手はあの武田信玄だ、粗相なんてあれば猿飛佐助にぶっ殺される、そんなの御免だ。
スパンと障子を開け現れたのは、坊主の優しそうなオジサマで、あの派手な武装はしてないんだと少しばかり安心した。
「遅れて申し訳ない。ワシが武田太郎晴信だ」
ドカッと座り自己紹介をする武田信玄に、少し感動した。いくら武装してなくても、矢張り武田信玄は武田信玄だった。某スタンド漫画で表現するなれば、ゴゴゴゴゴと効果音が付きそうだ。
「お初にお目に掛かります。なまえと申します」
「久しぶり、信玄」
ちょ、慶次いいいい!タメ口!呼び捨て!いいの、それいいの!?
どうやらこれが元の様で、武田信玄はさして気にも止めていない。其れどころか、今宵は酒宴だな、なんて口走る始末だ。
結局、今日は泊まっていけというお言葉に甘え、私は通された客間でゴロゴロしている訳だが。
いかんせん暇である。恐らく忍が天井から見張っているだろうから、迂闊に外へなんて出れないし。慶次は隣の客間へ通されたけど、信玄と話してくる、と出てってしまった。こうなったら最終手段だ。
「忍さーん、暇なので構って下さい」
「・・・・」
デスヨネー。天井からの返事はない。否、天井が喋るという訳ではなくてね、比喩だよ比喩。
もう一度、忍さーん、と声を掛けると今度は黒い影が天井から降ってきた。
「やれやれ、普通は忍に話しかけないでしょ」
やっちまった、忍は忍でも、呼んではいけない忍(さささ猿飛佐助!)だった。
とりあえずお話しでも、と言えば、じゃあお茶持って来るから、と溜息混じりに呟いて一瞬で消えた。
そして一瞬で現れた。どういう仕組みだ。
「あんた一体何なの?」
何者だ、何処の間者だ、と問いただされて、旅の者です、と答えれば返って来るのは冷たい視線。
「俺様ってばあんたの事、心当たりありまくるんだけど、」
けど殺した筈なんだよねー、と胡散臭い笑みを貼り付けて言われた。
「何の事でしょう?」
「だから、昨日の昼間、旦那の屋敷に居たの、あんたでしょ」
はあ、やっぱりバレてる。しかし猿飛佐助からしてみれば、殺した筈の人間がピンピンしてるなんて考えたくないだろうし、ここは上手くかわせそうだ。
「昨日の昼間は、知人と一緒に蓮畑を散歩していたので、人違いかと」
うむ、間違いではない。お釈迦様は一応知人だし(罰当たるかな)、お釈迦様のお庭も立派な蓮畑だ。嘘は1ミリもついていない。
「まあいいや。大将や旦那に害があると判断したら、即時消すから」
「怖いことを言いますね、地獄へ堕ちますよ」
ウフフと誤魔化せば、廊下からドタバタと煩わしい足音が響いた。あれだけ走るなって言ってるのに旦那ってばもう、と溜息をつく猿飛佐助を見て、ざまあと思ったのは私だけの秘密だ。
03.ご挨拶をしました。
(なまえ殿お!宴の準備が整いましたぞ!)
(こらこら旦那、廊下は走っちゃ駄目でしょー)
(むっ!佐助、何故こんな所に居るのだ!は、破廉恥であるぞ!!)
(はぁ・・・)
カナメ