02




目を開けたら、そこは森だった。否、山なのかもしれない。
とりあえず、ここにいては熊なんかに出会ってしまいそうだから、道らしきものを探すことにした。

お釈迦様が与えて下さった
トリップ特典はこうだった。まず、身体能力・自然治癒能力が著しく向上。この時代の文字の読解能力、そして月経停止。
まあベタっちゃベタだが、有難いのに変わりはない。


「しかし、まず何処へ行くかだよなあ。その前に此処どこ?」

「おや、お嬢さん迷子かい?」


いつの間に開けた場所に出ていたんだ、しかも気づけば背後に人が居る。森田お兄さんボイスなのは気のせい?ねえ気のせい?
ゆっくりと振り向けば、ポニーテールのお兄さん。


「おやっ、あんた可愛いねえ。これからちょいと城下に行くんだが、一緒にどうだい?」


ポニーテールのお兄さん基、前田慶次に誘われたんだったら悪い気はしない。
二つ返事で、後はもう弾む会話であっという間に城下に来てしまった。


「へえ、慶次は家出中なんだ」

「なまえちゃんこそ本当に旅人かい?綺麗な着物着てるし、実はどっかのお姫様なんじゃないの〜?」


名前で呼び合えるほどに仲良くなった。感激である。また猿飛佐助の時のように殺されるんじゃないかとも心配したが、慶次に限ってそんな事は無かった。喧嘩は好きだけど戦は嫌いって、中々好きだよその信念。

ちなみに慶次の言っている"綺麗な着物"とは、極楽にいる時にお釈迦様が用意して下さった物だ。確かに大変綺麗で上品なのだが、実際は凄く軽い素材で出来ているからとても動きやすいことこの上ない。しかも帯はワンタッチ式ときた。これならば、着付けなんてあってないようなものである。


「そういえば、何故城下に?」

「ああ、美味い甘味処があってね。可愛い可愛いお嬢さん、ご一緒に如何ですか?」


ふざけて手を差し伸べる慶次に、ふざけて手をとる私。手を繋ぎ笑い合いながら、甘味処へ向かった。なんかカップルみたいだ。

そして緊急事態発生。
幾ら旅人設定と言えど、一文無しはマズイんじゃないか・・・?あああお釈迦様、どうかお力添え下さい!


「うわっ、なまえちゃん、急に土下座なんかしてどうしたんだい!」


ハッ、しまった、私とした事がつい取り乱してしまった。うふふ何でもないわよ、と誤魔化しておいた。
するとなんだか懐に違和感がある事に気づく。慶次にバレない様に手で探ってみれば、可愛らしい巾着が。もしやと思って中を除くと、小判がチャリっと音を立てた。この時代、一般庶民は小判なんて持ってないよね?あれ私大丈夫?


「ね、ねえ慶次。私、小判しか持ってないのだけど・・・」

「野暮なこと言うね、お金は俺が払・・・って、ええ!小判!?」


あちゃー、やっぱりかー。まあ、うん、大丈夫、なんとかなるよね、うん。自信持て私!それに慶次は頭弱い説あるし!うんうん!


「あ!慶次、ここでしょ!早く入ろう!」


少し態とっぽかったかも知れない其れに、慶次は気付かず、ああ、とだけ返事をした。
茶屋の娘に案内された席に、向かい合わせで座る。


「此処の団子、すっげー美味いんだ。あ、こっちにも団子と茶を!」


慶次が注文してから、一分も経たないうちに、緑茶とお団子が運ばれてきた。
みたらし団子であろう其れを一口齧る。ゆっくりと咀嚼して喉を通し、緑茶を啜る。はあ、おいしい。単純な味だけど、お米の甘みやみたらし餡の塩辛さが凄く丁度良い。シンプルイズベストとはまさにこの事だ。

それなりに混み合っていて忙しない店内で、慶次と私を取り巻いているこの空間だけはのんびりとしていて、他愛のない話しなんかしながら笑あった。


「戦なんて無ければいいのに」


人なんて殺してないで、美味しいご飯や甘味を食べて、幸せになればいいのに。少なくとも、私はこのお団子一つでとても幸せである。


「ほんとだよねえ、俺も同感だよ」


しまった、声に出ていたらしい。戦嫌いの慶次は同感してくれたが、もしもこの店内にお侍がいたらどうしよう!そんな心配は虚しく、ガヤガヤと賑わっている店内で私の呟きが聞こえたのは慶次ただ一人だった。
ホッとしていると茶屋の娘がやってきて、相席は大丈夫かと聞かれた。私も慶次も大丈夫だと伝えると、娘は店の入り口へ走っていく。


「いやあ、繁盛してるねえ」

「流石、慶次のオススメするお店だけあるね」


ウフフアハハと会話に花を咲かせていると、失礼致す、と頭上から保志ボイスが聞こえてきた。
まさか、モブだろモブ、と見ないようにしていたが、それもあえなく無意味となる。


「あれ?風来坊じゃない」

「む、慶次殿であったか。お久しぶりで御座る!」


わーお。
真田幸村と、猿飛佐助。真田幸村一人なら別になんて事無かったと思う。一人なら、ね。猿飛佐助が居るとなれば大問題だ。思い返せば私は猿飛佐助に殺された筈なのである。どうしよう。どうか気付きませんように、と心の中で何度も復唱。


「ところで、そちらの女子は慶次殿の連れで御座ろう?」


きたよおおお、真田幸村の空気読めないスキル発動しちゃったよおおお、ばかああああ。


「そうなんだよ!なまえちゃんって言うんだけど、俺の旅仲間みたいなもんかなあ」

「おお、そうで御座ったか!紹介遅れて忝い、某は真田源次郎幸村で御座る。以後お見知りおきを」


慶次も余計な紹介するなよおおお、猿飛佐助から誰コイツ的な視線グサグサ感じるからあああ。
ああ終わった、と項垂れた私に何を勘違いしたのか、調子が悪いのか?と心配してくれる真田幸村。畜生、画面越しだとあまり感じなかったが生で見ると可愛いな。女として負けた、私にそんな可愛さないよ。


「・・・あんた、何処かで俺と会わなかった?」


キター!猿飛佐助の鋭い質問キター!しかもちょっと古風なナンパ台詞だよそれ。あれ、でも覚えてないなら好都合じゃない。いける、乗り切れる。


「はじめまして、なまえと申します。慶次とは旅の道中で出会いました。以後よしなに」


よし完璧だ!
心の中で大きくガッツポーズをしている私を他所に、三人は何やら会話を進めていた事を私は知らない。




02.遭遇しました。
(ちょっと旦那、何言ってるの!)
(慶次殿のご友人とあらば、親方様にも紹介せねばなるまい!)
(いいねえ、俺も久々に信玄に会いたいし)




−−−
慶次には苗字も教えてしまったので、ヒロインの事を完全にお姫様だと勘違いしてます。
あと小判について、間違いが御座いましたらお知らせください。

カナメ





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