01




私はオタクだ。
アニメも観るし、ゲームもやるし、好きな作品のグッズを集めたりもするし、好きな作品の二次創作品にも手を出している。
そう、夢小説にも。

たった今、私が体験している事が夢であるなら、とっとと覚めてほしい。
そうでないのなら、これは夢小説で散々見てきた、所謂トリップというやつかもしれない。


「現実逃避してるとこ悪いんだけどさ、俺様忙しいの。とっとと答えてくれない?でなければ、」


目の前にいる、如何にも猿飛佐助です的なお兄さんは、消すよ、と至極胡散臭い笑みを浮かべ言い放った。
これから如何しよう、なんて考えようにも、首に感じる冷たい何か−−−恐らく、と言うか確実に苦無−−−によって、すぐに打ち消される。

ああ、恐怖ってこういう事を言うんだなあ、と回らない頭で思った。
いくら愛好しているゲームのキャラクターであれ、命を脅かされているとなれば話は別である。身体が震える。


「あらら〜だんまり決め込むつもり?」


はあ、この癒しの子安ボイスも、今じゃ何の癒しにもなんねーよ。
とりあえず、死という局面から脱したい私は、意を決して猿飛佐助と会話を試みる。


「ど、どうも、こんちくわ」


シーン。
脱せなかった、ギャグとも言えないギャグで辺りの温度は更に低くなったような気がする。猿飛佐助の顔が大袈裟に歪んで見えた。


「あ、ごめんなさい、今のは失言だった」


訂正しておいたが、無意味だろう。
猿飛佐助も苦無を降ろす気はなさそうだし、完全に天国ご案内コースでは?
あはは笑えねー。せっかくトリップしてきたのに、出会えたのは猿飛佐助だけですか?しかもその猿飛佐助に殺されるとか?どうせなら片倉小十郎とか長曾我部元親の筋肉拝みたかったよねー。いやいや本願寺はいいよ本願寺は。それに毛利元就ともキャイキャイしたかったなー。あー未練タラタラ。そもそも目を覚ましたら殺されかけてるってどうよ。驚いたよ。ねえ神様、私は何の為にトリップしたの?ねえ?


「じゃあね、間者サン」







失血死ではなく、ショック死じゃないかと思う。特に苦しむ事もせず、意識を手放した。


「ってあれ、此処どこ」

「ようこそ、極楽へ」


うっそーん。
どうやら死んだのは間違いないらしいけど、着いたのは極楽。目の前には中性的な、そう、お釈迦様のような・・・


「え、お釈迦様?」

「良くぞ。お前が此処に来てしまったのは、こちらの手違いだ。詫びを入れよう」


ええええええ!
一体何故、どういう風にして手違いが起こったのか詳しくお聞かせ願いたい。いくら楽天主義な私でも、手違いでトリップした上に殺されてしまったなんて、たまったもんじゃない。
詳しく伺うとこうだった。



−−−先日、いつものように庭を歩いていたのだが、いかんせん退屈してきたものだから気分転換に、と地獄へ繋がる池に蜘蛛の糸を垂らしたんだ。極楽名物の罪人釣り、ってやつな。
したらば一人の男が糸に気づいて登ってきた。しかもその男は全然欲張らなくて、後から登って来る奴等と寧ろ掛け声なんかし合いながら、登り切りやがった。
でもまあこんな男が地獄にいるなんて不思議で仕方なかったんだ。だから知人の老仙人にその男を紹介して、仙人に成るべく修行をさせた。
んでその男も今ではすっかり半人前の仙人になれたって訳。でも、ここでお前に関わる重大な事件が起こった。
その事件ってのが、−−−


「別世界にいたお前を、こっちに飛ばしてきちまった。言わば力の暴走っやつだな」


な、なるほど。話しが長くて半分くらい聞いて無かったのは秘密だ。っていうかこのお釈迦様、少し物ぐさすぎてはないだろうか。
と、まあこれでトリップしちゃった謎が解けたが、まだ疑問点は沢山ある。例えば、なぜ死んでも元の世界に帰れないのか、とか。

其れとなく聞いてみれば、半人前の仙人では、飛ばす事は出来ても帰す事は出来ない、だとか。しかも飛ばした本人で無ければ、帰す事が出来ない、とも。


「つまりは、暫くこっちの世界に居ろと?しかも極楽に?」

「いやな、それが、凄く言いづらいんだが、極楽はお前を拒絶してるんだ」


それがまた面倒な話しだった。つまりはこうだ、私は飛ばされた人間なので、こちらの世界では異端。人間のようで人間ではない、らしい。そんな異端なモノが居ては、極楽が汚れる、つまりはそうだった。
お釈迦様は、オブラートに包んで話して下さったけれど、どうにも自分が汚れた存在なのだと言われているようで、心地悪かった。

しかし転じて言えば、私は不死身。何度死のうが、極楽へ拒否されている以上は生き返る。
因みに人を殺めると地獄へ堕ちるらしい。人は決して殺めてはならないと、お釈迦様と約束した。


「そういう条件で、お前の言葉で言うトリップ特典とやらを付けてやる。良いか、決して人を殺めてはいけない」

「了解、ついでになるべく死なないようにします」

「ああ、それが良い。こちらの面倒も減るしな」




そうして、私は再び戦乱の世へと舞い戻った。






01.お釈迦様は云いました。
(あれれ?俺様、確かに殺ったよね?)
(じゃあ何で死体が無いの?)
(まあいいや、お使いお使いっと!)




−−−
やっちまったぜ、行き当たりばったりなトリップ連載。
手始めに、佐助に殺されてみました。
お釈迦様の色々は皆様のご想像にお任せ致します。中性的なお顔とボイスです。(最初は敬語キャラだったけど、口悪くなってしまった・・・)


のんびり気長にやっていきます。誤字・脱字等がありましたらお知らせください。

カナメ





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