06




私はあの後、躑躅ヶ崎館から上田城へと移動した。なんでも、信玄公はこれから諸用で暫く出掛けなければならないとか。
躑躅ヶ崎館から上田城へは馬で移動したが、乗馬はあんなにもハードなものなのか、と少々グロッキーである。

着いたのは空が紅くなった頃で、夕餉まで暫し待たれよ、とのこと。私にあてがわれた客間は、躑躅ヶ崎館の時よりも幾分か小さくて、少し安心した。それでも十二畳程はあるのではないかと思う。

暫くして、女中さんが夕餉を運んで来てくれた。一人で夕食かあ、なんて考えていたら、ドドドドドと廊下を走る音が聞こえて来た。


「なまえ殿ぉおおお!!!」


聞いてない聞こえてない。私は関係ないヨ。幸村が私の名前を叫びながら廊下を
走ってるなんて気のせいだヨ。足音が段々大きくなってるなんて認めないヨ。


ドタドタドタ、バンッ!


「なまえ殿!某と一緒に夕餉を!!」

「・・・あー、うん。分かったから、座ろうか」


天井から、溜息が聞こえたのは気のせいではないだろう。
食事の最中は、私の世界の交通手段について教えてあげた。でもやっぱり言葉じゃ説明し難くて(これもゆとりの影響か・・・)、今度絵に描いて説明する事にした。自転車も車も電車も飛行機も、何もかも説明が難しすぎる。

その後は、暫く幸村と談笑した後に湯浴みをして、布団に潜った。


「ねえ佐助」


特に理由があって呼んだわけでは無いが、何となく暇で、呼んでしまった。
黒い影は音も無しに降りて来て、忍遣いが荒いんだから、とぶちぶち文句を言われた。


「暇なの。私が眠れるまで構って」

「はぁ、童じゃないんだから」

「じゃあ筋肉拝ませて、私飢えてるの」


私がそう言った瞬間、佐助はピシッと固まった。なに、なにかマズイことでも言ったかしら?女子が男子の筋肉を欲していることの何がマズイの?

そして、硬直からハッと我に帰った佐助に、半刻程お説教された。何故。


「いい?男はみーんな狼なの。旦那もだよ、わかった?」

「佐助、もう正座やだ」

「あーもう話し聞いてよ」


良かった良かった、
佐助とも上手くコミュニケーションとれている(と思いたい)。睨まれる事も無くなったし、殺気なんて微塵も感じなくなった。
信じてくれてはいないだろうけど、こうやって会話できてるのだから、ある程度は認めてくれているようだ。


「佐助、筋肉」

「だからね、・・・あーもう!分かったよ!俺様の貧相な筋肉で良ければどうぞ!ほら!」

「・・・!!わーお」


私が余りにも話しを聞いてないので、呆れた佐助は観念して筋肉を見せてくれた。俺様なんでこんなことしてるんだろう、なんて聞こえたがこの際無視だ、無視。


「傷は多いけど、なかなか引き締まってるね」

「ヒィッ!ちょ、なまえちゃん、触らないで!」

「、名前!佐助、今、名前!」


彼の言い分はこうだ。
『認めた訳ではない。こう呼ぶしかなかった』
なんとも可愛い言い訳である。




散々筋肉を弄くり回され疲れ果てた佐助を尻目に、私は睡魔の手を取った。




06.仲良くなりました。
(はぁ、何これ俺様すっごく惨め)
(ああ!筋肉待って!)
(夢でも筋肉ですか・・・)



カナメ



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