「ん…う…」
目が覚めると見慣れた天井があった。
いつものベッドの感触に安心して息を吐く。
「起きた?」
「ッ!」
でも嗚呼、やっぱり。
アイツの存在は本当で、自分はもう逃げられないのだと瞬時に理解した。
キッチンからいい香りがする。
勝手に家のエプロンを着けたアイツは微笑んで「粥を作ったから食べろ」と言った。
体調を悪くした元凶が何を言うのだろうか。
お前が出で行ってくれば、俺の体調はよくなると言うのに。
だが運ばれてきた温かくいい香りのする粥は食欲をそそった。
アイツは俺の頭を優しく愛おしそうに撫でるとキッチンへ戻っていった。
どんどん冷めていく粥を黙って見つめていると、ひょいっとアイツはキッチンから顔を出した。
「食べないのか?」
「た…べます…」
「ならいいけど」と微笑んだアイツはゆっくり近づいて来た。
何をされるのかと警戒していると小皿にひょいひょいと粥を入れスプーンを俺の唇に押し付けてきた。
ここで素直に食べないと何をされるか分からないから口を開けそれを受け入れると皮肉にもアイツの作った粥は美味かった。
「美味しい」と素直に言うと「嬉しい」と返ってきた。
俺が粥を飲み込むとまた粥を差し出される。
恐怖でいっぱいだったがアイツの優しい笑顔にどうしようもないくらい、
切なくなる自分がいた。
「高杉」
「な、何?」
「お前一度も俺の名前呼んでくれないよな」
「…、」
「まさか、忘れた?」
「坂田、さん」
その言葉を言った瞬間首を絞められた。
え、なんで
「俺名前で呼べ言ったよな?」
「ぎ、銀時ィ…」
あの鋭い目に射抜かれると恐怖で身体がすくんだ。
素直に呼びなおすとまたあの優しい笑顔で頭を撫でられた。
本当にこの人は自分を愛しているのだろうか、もし本当に愛しているとしたら歪み過ぎたこの愛情をどうやって拒むことができるのだろうか。
いや、拒んだ瞬間俺は殺される。
それを理解してしまった俺はただ黙ってこの人を不機嫌にさせないようにするしかないのだと。
その結論に達した瞬間吐き気がした。
気持ちが悪い、助けて誰か。
吐き気に眉間にシワを寄せているとクイっと顎を持ち上げられた。
「…、あの…ぎんと」
「好きだ、晋助」
「んんう!?」
唇をふさがれて、ああ、気持ち悪い!!
身体を捩って唇を開放した。
その瞬間殴られた。
「なあ、今逃げた?」
「ひぅ…、ごめんなさ…」
「おい、俺たち付き合ってるよなぁ?」
いつ付き合ったんだよ…
そう心で思うしかなかった。
言った瞬間殴られる、それを分かっていたから頬の痛みを我慢して頷いた。
「なら、」とまたキスされた。
「う…!!」
結局吐いてしまった。
吐いた後にはっとして、銀時を見ると眉間にシワを寄せて俺を見ていた。
「…なあ、今」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
殴られる、そう思って必死に謝った。
銀時の手が伸びてきた、
痛みを覚悟して歯を食いしばると頭を優しく撫でられた。
「…体調、悪いんだな」
「え、…」
突然の優しさに胸がキュウッと切なくなった。
「今は寝ていろ」
背中をポンと優しく叩かれ、水で口をすすぐよう言われた。
咥内の苦味がとれた。
頭を優しく撫でられている間に俺は不覚にも気持ちよく眠ってしまったのだ。