硝子越しのキス


俺は感染症です。
硝子の壁でできた隔離部屋で俺は独りです。
話し相手も居ません。
俺はずっと独りです。


「坂田さん、食事の時間です」


「はい」


入ってきた看護士は肌を全く露出しない姿だった。
感染予防だろう。
食事を机に置くと「食べ終わったらナースコールを」と一言言って去っていった。
スープカレーとサラダとパン。
パンを手に取った時、ブオオ、と空気を吐き出す音が聞こえた。
殺菌消毒をしているのだろう。
食事を終え、本を読んでいると看護士ではない声が聞こえた。

「失礼します」


無防備な服で入ってきた。
同い年くらいね青年の姿。
先ほどの看護士の姿とは全く真逆。
身体を露出してはならないこの感染の菌が充満する部屋で。
彼はラフな姿で入ってきたのだ。


「おい、お前!」


「俺は、三日後に死ぬんだ」


「え、」


「…だからお前と話したかった」


死んでしまう身体。
感染したとしても三日後には死ぬ。
そう彼は告げた。


「俺は高杉晋助」


「坂田、銀時」


久しぶりの看護士以外との会話。
暇だったこと、本の内容、感染する前の学校生活。
高杉は微笑みながらうんうんと聞いてくれた。

ただ、硝子越しだった。

お互いに病人のため流石に直接触れ合うのは医者に止められた。
高杉はよく咳き込む。
白く細い腕には点滴の痕がみられた。
長く付けていたのだろう肌が赤い。
そんな点滴も今となっては不必要になったと言うことだ。

楽しい時は流れるのが早いと言うが本当に早かった。


「…今日か……」


「ああ」


昨日と変わらない高杉。
余命は今日。
なのに歩いてこの隔離された病室に来た。
今日も変わらず高杉は俺の話しを咳き込みながら微笑んで聞いてくれた。


それから一週間。
高杉は生きていた。

夜の10時。
消灯時間が迫り、高杉は「じゃあ」と立ち上がった。
だが立ち去らない。


「高杉?」


ドアの前で立ち尽くす高杉を呼ぶとスタスタ近寄ってきた。


「ずっと、見てた、」


「え、」


「俺の病室とこの病室は向かいの建物でずっと、見てた、」


「高杉…?」


「死ぬ前に話したかった、本当は触れたかったけど、」


「たかっ、」


「銀時が好きだ」


涙を溢れさせて高杉は想いを告げた。
2人を隔てる硝子にキスをした。

高杉は俺の行動に驚いていたが高杉もまた近寄って俺の唇がある所にそっと、硝子に唇を付けた。


ピチャピチャと硝子を舐め合い触れられないことを悲しんだ。
ケホッと小さく高杉が咳き込むとその行為は終わった。

高杉の身体は治らないものの、俺と出会う以前より体調が良いらしい。
俺も、そうだ。


「明日も来て」


「ああ、」


硝子越しの君へ、
  ―…早く触れたい


Fin.






 
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -