諦めることを諦めた。

白晋企画様→



ワザと突き放した。
好きだからこそ突き放した。
自分がお前なんかに壊されるのを恐れて逃げ出した。
だから今、俺はここにいる。

高杉晋助が営む『万事屋晋ちゃん』は好評で忙しい毎日だった。
だが珍しく今日は昼が過ぎた時間帯だというのに誰一人として依頼人が来ておらず、久しぶりの休暇に高杉は優雅に煙管を吹かしていた。
呑気に鼻歌を歌っていると玄関先からガラガラと扉が開く音が聞こえ、依頼人か、と高杉は煙管を懐にしまって玄関に向かった。


「………あ゙ッ!」


首を絞められた。
ギリギリと爪が食い込んで皮膚が破ける感覚に高杉は眉を潜めた。
相手の腕を掴み睨んだ。
その瞬間、高杉はカックリと膝が折れてヘナヘナと床に尻をつけた。


「銀時」


身体に血の香りを染み込ませた過激派攘夷獅子、坂田銀時がへたり込んだ高杉を冷たい眼差しで見下ろして立っていた。
赤い瞳に捉えられると高杉はドクリと胸を痛ませた。
高杉は銀時を愛していた。
過去形、なのは高杉が銀時を諦めたからということにして。


「久しぶりだな、高杉」


"高杉"、以前は"晋助"と呼ばれていたと言うのに、何時からか銀時は高杉を苗字で呼ぶようになり高杉を一層諦めさせる。
淡い小さな恋心。
かつては共に同じ戦場を駆け抜けたというのに。


「銀時、てめぇ何しにきやがった」


諦めたのだ、と心に何度も言い聞かせながら高杉は問う。
ふっと銀時は口端を釣り上げると膝を床に付けてへたり込んだ高杉と同じ視線になると、愛おしそうに高杉の頬を撫でる。
ビクリ、と肩が震えるのを見て酷く優しい視線で見つめた。


「ぎ…ん…」


「高杉、戻って来いよ」


それは甘い甘い誘い。
また共に戦おうと、
大切な恩師を奪った世界を壊してしまおうと。
迂闊にも高杉は涙を流しそうになったが、そこはグッと堪えた。
今泣いて銀時の胸に飛び込んでしまったら、もう自分は自分で居られないと。
自分の傍で笑って支えてくれるこの歌舞伎町の住人を裏切ってしまいたくないと。
高杉はフルフルと首を横に振った。


「……そうかよ」


銀時は立ち上がり高杉を蹴り飛ばした。
高杉はグッと堪えて痛み以上に苦しい心をおさえた。


(こんなに痛いのに、)


どうしてこんなに愛しいと思ってしまうのだろうか。
諦めた筈なのにまたこんなに切なくなる。

ボロボロになり倒れた高杉の髪を掴み無理やり身体を起こさせた銀時は噛みつくようなキスをした。


「んン…ふっ、」


「…昔みたいに戻れたらな」


優し過ぎるキスの後、残酷な言葉を吐き捨てて銀時は万事屋を出て行った。
1人万事屋に残された高杉は我慢し続けてきた涙がハラハラと零れ落ちて床を濡らした。
腰にある刀を振るえば銀時は昔のように俺の傍に居てくれるのだろうか。

遠くに行ってしまった銀時を
世界を恨み続ける銀時を


「俺は………ッッ」



昔も今もくだらないプライドで自分を押し付けて
彼を突き放して
また会うとたまらなくなる。


(ああ、……)



 諦めましたよ どう諦めた
  諦められぬと諦めた。



どんなに自分を押さえつけたとしても、
この想いだけは、



Fin.





 
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