今だけは問題児で


最近学校に教育実習生がやってきた。
いや、ぶっちゃけ迷惑。
何時もの先生の授業じゃないし地味に試験に響きそうで不安になるし、初々しい実習生を茶化すクラスメイトのおかげで授業もはかどらない。
あれま、俺ってこんな真面目だったかな?なぁんて。


「教育実習生の高杉です」


ドクリ、と心臓が鳴った気がした。
中太りした担任教師が連れてきた教育実習生は男のくせにラインが細くて整った顔をしていた。
一目惚れっていうのは本当に存在したんだ。
「質問ある奴―」と担任教師が言うときゃあきゃあと女子が「高杉先生ぇはぁ彼女いますかぁ?」などと甘い声を出した。


「いません」


それに対しすっぱりと答える高杉先生に「クールっ」など黄色い声ではしゃぐ。
高杉先生は保健教師希望。
妙に似合ってる気がした。


――――――――――


教育実習は二週間。
保健の授業は週に一回。
週一だなんて耐えられなくてわざわざ保健室に通いつめて本当の教師をほっぽりだして高杉先生に話し掛ける毎日が楽しかったし愛おしく想うのが日に日に増していくのが分かった。
でも、


「高杉先生―」


「チッ、またか」


「今日で最後だね」


「―…ああ」


あっと言う間の二週間。
もう会うことはできないのかな。
問題児みたいに毎日授業をサボってきた毎日も今日でおしまい。


「先生」


「あ?」


「放課後、駅前のファミレスで待ってるから!!」


「え、坂田?」


何か言おうとした高杉先生を振り切って保健室から逃げ出した。
だって、離れたくないよ先生。
忘れないで、
ただの生徒にしないで。
高杉先生が、欲しい―…。



放課後、駅前のファミレスで待った。
ドリンクバーをジュルジュル啜っていると6時頃高杉先生がやってきてくれた。


「先生、来てくれたんだ」


「もう先生じゃねぇよ」


「あ、…そっか」


「今はもう、教育実習生でも生徒でもねぇ、ただの高杉と坂田だ。」


「うん」


「だから何の関係もねぇ」


「…分かってるよ」


「坂田ぁ…」


え、先生?
なんで、


「泣いてるの…?」


「ふざ、け、テメェが、」


好きにさせたくせに―、と高杉「先生」はポロポロと涙を流した。
そんな先生が可愛くて仕方なくて、ああ、先生じゃない。


「晋助」


「ン、う」


晋助の頬を両手で挟んでキスをした。
ぷっくりした晋助の唇は気持ちよかった。
なのに、


バッチーン


「いったあああ!?」


「テメェ、ここ何処か分かってんのか!?」


ファミレス。


あ、ヤバい。
キスとか、男同士でしちまった。
晋助、顔真っ赤。
ああもうここがファミレスじゃなきゃ直ぐにでも押し倒してぐちゃぐちゃにしたいのに。


「さか、た?」


坂田の目は欲情にまみれていた。
ふ、と目が合うとゾクゾクとして離せなくなる。
ああ、今すぐぐちゃぐちゃにされたい。
店内の客や従業員が野次馬になって俺達を見ている。
「きゃあ、」と一部異様な雰囲気の女も熱い視線。
坂田は俺の手を掴み走ってレジにドリンクバー代を置いて直ぐにファミレスから出た。


「晋助、」


「…さかた?」


「好きだよ、晋助、二週間の教育実習なんかじゃ足りない、全然足りないくらい大好きだよ」


「……ッ、さか、ンう」


だから、道端なのに、ンん、気持ちいい。
坂田の素直な言葉に涙がまた出そうになったけど堪えた。
そこは、まあ大人として、かな。


「晋助、好き、好き大好き、」


「坂田、」


ただの坂田と高杉の恋が始まる。



Fin.



 
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