さよならまであと3秒



自分の勝手に動く唇を縫い付けてしまいたいと思った。
でも何故こんなにも目頭が熱くなって体液が頬を伝うのか、まったく分からなかった。
いや、分かりたくなった。
認めたくなかった、の間違いなのかもしれないが。


「…お前、また江戸に来たのか」


「悪いかぁ?」


ああ、また、目頭が熱くなる。
だけど体液が頬を伝うのはぐっと堪えた。
知られたくない、知りたくもない感情。
お前に触れてほしい、という衝動を。
有りもしない右目が疼く。


あの頃に、攘夷戦争の頃のように、お互いに血を浴びた日々に戻りたいと。


   『いいや、戻れぬよ』


頭の中で誰かが言う。
分かってる、そのくらい。
だけど、


「それで、?何よ。お前わざわざ江戸に変装もせずにノコノコ来て俺に斬られに来たわけ」


「斬りに、の間違いだ」


唇が動く。違う、違う違うだろ?
俺が言いたい言葉は―、


「ふーん、」


木刀を銀時が構えた。
でも動けない俺の身体。


「…銀時ぃ」


「あ?」


ヤバい、泣きそう、
分かっていた感情、
理解したくなかった感情。


「…ッッ、大嫌いだ、てめぇなんざ」


馬鹿野郎。


でも、最後、最期だから。


「ああ、俺もだ」


伝えたかった。
銀時が走り出した。
このまま馬鹿みたいに突っ立ていたら銀時に殺されることが出来たのにな。


「ゴホッ」


俺、病気に、結核になったから。
銀時にさえ殺して貰えないんだな。
口端から血が伝って、そのまま、


「――高杉!?」


銀時の胸の中に倒れ込んだ。
あと3秒早かったら銀時に斬られることができたのに。










―――――――――――



「…ぎ……」


目を覚ますと見知らぬ天井があった。
隣に銀時が俺を見つめてて
下に柔らかな布団。


「…高杉」


「銀時…」



「早く帰れ」


「ああ…」


ダルい身体を無理やり動かしてフラフラと玄関に向かって。
立てかけてあった刀を腰にさして、


「…さよなら」


「もう二度と来るな」


「銀時…」


背中を押され外に追い出された。
もう二度と、か。
そうだな。
もうこの身体はもたない。

ガラガラと扉が閉まっていき、銀時の顔が見えなくなっていく。


「――…好きだ…」


ピシャン。


さよなら、愛しい銀時。



Fin.



 
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