たったひとつの
      触れる方法




梅雨になった。
この時期は傘は必需品となる。
久しぶりに登校したが授業にでる気がしない。
でも今にも雨が降りそうで屋上には行けない。
というより、何故こんなやる気もなく、不安定な天気なのに俺は学校に来たか、
それは、まあ、


「…げ、降ってきたな」


「銀八、」


「高杉、今日来てたのか」


「傘、」


「え、今日も入れてくれんの、」


「ん、」


「ありがとう、」


頷くと銀八の手がフワリ、と頭にのった。
ポンッと傘を開いて銀八を入れると肩が触れた。
柄にもなく緊張して身体が強張った。
毎朝の天気予報を気にして曖昧な天気なとき傘を持って登校する。
片思い相手である、銀八に唯一触れてもらえるから。
頭に手がのって、肩が触れ合う。
…―それだけでもいい。
所詮は男同士だから。
報われるなんて、ないんだ。
でも、もしも銀八が俺の気持ちやわざとらしい行動に気が付いたとしたら、
銀八と今までのような関係でいれるのかな、
そう考えると胸がきぅっとした。


「高杉よ、」


「……何んだよ」


「良かったらそこのファミレスで何か食べない?傘のお礼、みたいなさ」


「……いいの」


「ああ、たまには先生が奢ってやるから、格好付けさせてくれよ」


ああ、今日の雨に感謝しなくちゃな。
ファミレスに入ると銀八は「喫煙席、」と一言、店員に言うと席に着きメニューを広げる。
うんうん、とじっくりと眺めてから、チョコパフェと白玉あんみつ、旬デザート盛りだくさんサンデーを頼む。
俺は銀八の財布を心配してコーヒーを頼んだ。
待っている間、何の会話をするべきか悩んでいると、銀八が胸ポケットから煙草を取り出し乾いた唇を舐め、ゆっくりとした動きで煙草をくわえ、火をつけた。


(……なんか、大人だ)


餓鬼の自分にはまだない大人の雰囲気。
惚けて見ていると銀八が手を俺に伸ばし、唇にそっと触れた。


「え、ぎ、んッッ」


「…雨、ついてた」


え、唇に、雨?
銀八の赤い目は此方に向いていて逸らすことができない。
コーヒーが運ばれ、チョコパフェも白玉あんみつも旬デザート盛りだくさんサンデーも運ばれてきたのにお互い何も言わずパフェたちのアイスが溶け始める。


「高杉、俺が傘何時も忘れると入れてくれてたよな、」


「え、」


「梅雨に入るとほぼ毎日雨降ってて、試しに忘れると高杉は傘持ってきてくれてさ」


「た、たまたまだ、」


「そうなの?」


「…う、」


「だから俺、毎回雨降るの楽しみだったのに、」


「え、?」


「お前と会えるから、」


それだけ言うと銀八はもくもくとパフェたちにスプーンをつけていった。
ああああああ、


「確信犯かよ…ッ」


大人はズルイよ、先生。



Fin.



 
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