終電間際



退屈な終業式が終わると教室の女子が楽しそうに話している。
どうやらクリスマス誰と過ごすか、という話題らしい。
彼氏がいる者を冷やかしたり、女同士で騒ぎ通してやるー!と叫ぶ女子もいた。
男で彼女がいない俺にとってクリスマス何て興味のないイベントだった。
学校指定の鞄を肩にかけて教室を出ようとすると数人の女子に呼び止められた。


「高杉くん、今夜予定無かったら彼氏彼女いないメンバーでカラオケ大会するんだけど…良かったら…」


顔を赤らめて言う、栗色のウェーブのかかった髪の女子の後ろにはニヤニヤとしている数人の男子と「よく言ったっ」と騒ぐ女子がいた。
あまり乗り気では無いが男子も来るなら騒ぎまくって楽しそうだと思って了承しようとした。


「高杉、」


「あ?」


「今日お前居残りだから」


担任教師の坂田が俺に大量のプリントを渡す。
遅刻欠席の埋め合わせらしい。
栗色の髪の女子の表情は暗くなっていた。
坂田に強制連行されて、準備室でもくもくとプリントの答えを書いていく。
時計の針は6時を回って腹がぐるぐると鳴った。
煙草を吸っていた坂田がニヤニヤとこっちを見ていた。
まだ半分しか吸ってない煙草を消して席を立つ。
自然に目で追うと目が合った。
どこまでできた?と聞かれたから出来たプリントを渡すと面倒な表情で頭を掻いて適当にチェックを付ける。


「腹減ったし後残りは俺ん家でやりなよ」


は?、何でお前ん家行かないと行けないんだよ、
と言う暇もなく連れてこられてしまった。
コンビニでおでんとおにぎり、それと弁当を買って坂田のマンションに入った。
華奢な身体には合わない食料の量に坂田は笑った。
電子レンジで温めた弁当を食べていると坂田はクスクスとまた笑って俺の頬の横についた米粒を取った。
高校生にもなって米粒を取られたと思うと羞恥で顔が熱くなるのを感じた。
坂田がテレビをつけて適当にチャンネルを変えていく。
どれもクリスマスの話題関連の番組ばかりだ。
坂田は「もうそんな時期か」と呟いた。
「高杉、もしかして今日デートだった?」


「…いや、彼女いねぇし」


「あれ、でも宮瀬と話してたじゃん」


宮瀬とは教室で話しかけてきた栗色の髪の女子の名前だ。
つか、お前が遊ぶ予定潰したんだろ。


「あ―、まあ…、」


「今日は、お前を誰にも譲りたくなかったから」


「…え」


煙草に火をつける坂田の表情は真剣で。


「…何てね」


クスクス笑ってるが視線は何時も教室で見る表情と違っていて。
坂田は立ち上がりホットココアを作り始めた。
甘ったるい香りが部屋に充満する。
あ、俺のも用意したの。
俺甘いの苦手なんだけど。
とか言うと坂田は甘ったるいホットココアを2杯飲み干した。


「…そろそろ帰らないと電車無くなっちゃうかもね」


「は?、あ…」


もうこんなに時間がたっていたのか。
楽しい時間は直ぐ過ぎるというのをふと思い出した。
コートを着てマフラーをぐるぐるに巻く。
坂田も見送りで付いて来る。


『最終電車××行き発車します』


「…じゃあ、よいお年を」


「ああ」


ドアが閉まっていく。
その瞬間腕を引かれる。
身体がドアに挟まり再びドアが開いていく。
強く強く強く、腕を掴まれていて振り解く事も出来たが黙って坂田を見つめていると電車が発車してしまった。
今日は帰れない。


「ン…ッ」


頬を両手で挟まれてキスをされる。
不思議とその行為は自然で何時もしていたかの様に、驚くことは無かった。


「好きだ、高杉」


ああ、抱き締めてくる坂田の体温は酷く心地よいもので。
不覚にも涙が出た。
頬に触れる冷たい雪はまるでドラマのような行動をした俺達へ更に演出をするようだった。



Fin.




 
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