冷たい指先
  ―…本当はずっと待っていた



久しぶりの残業。
生徒が遅く提出した課題の評価をつけるのに時間がかかってしまった。
区切りのいいところで両腕を上にのばした。
後数人残っているが一息つけようかと席を立つと教員室は自分の座っていた席の周り以外の電灯は消され、暗かった。
はあ、と思わず溜め息を漏らした。
コーヒーを淹れて席に戻る。
そろそろ8時をまわる。
そして最後の生徒の評価をパソコンのエクセルに打ち込む。
やっと帰れる。
データを保存しUSBをパソコンから引き抜く。
電源を落とし、戸締まりを確認したら電気を消した。
校舎からでると冷たい風が吹いた。


(―…今日は鍋がいいな)


「よお、銀八偶然だな」


夕食の献立を考えていると校門の前に赤色の長いマフラーをぐるぐるに巻いた高杉が立っていた。


「どうしたの?こんな時間に」


「あー、これ買いに」


ガサッとコンビニの袋を見せる高杉。
制服の姿のままなのは着替えが面倒だったからと言う。
制服のポケットに手を突っ込む高杉を横目に俺は歩き出した。
その後ろをひょこひょこ付いて来る高杉に帰らないのかと聞くと「お前ん家で鍋してぇ」と言うから、はいはい、とぶら下げているコンビニの姿を受け取った。


「……ッ?」


「銀八?」


「お前の手冷た―…い…」


あれ?
まさか、


「…んだよ」


「待っててくれてた?」


「!」


頬がどんどん紅潮していくのが分かりニヤリと唇が無意識に上がった。
高杉の手をポケットから出させて手を握った。
絡まる指が少し折り曲げられて嬉しくなる。


「風邪ひいたらやだからさ、今度鍵渡すよ」


「いいのかよ」


もちろん、と笑うと高杉は更に絡めた指に力を入れ、微笑んだ。
アパートに着くと高杉がまだ甘えるように座った俺の脚の間にいる。
制服とマフラーをたたみ、今は俺のルームウェアに身を包んでいる。
少し袖が長いのが不服そうだ。


「ん…っ、銀八」


「ん―?」


首筋に口付けると欲情の瞳を向けられる。
高杉は幸せそうに俺の指先に甘え、口付ける。


「ずっと、待ってたんだ」


「うん、寒かったろ?」


頬を撫で、髪を愛おしくすくと目を気持ちよさそうに細めたが首を横に振る。
まさか「銀八を待っていたんだから寒くなかったもんっ」的な事を言ってくれたりして。


「この高校に入って、銀八に会って目が合った瞬間分かったんだ。銀時だって」


「銀、時?」


首を傾げると高杉は悲しげな表情になった。
ああ、この表情は知っている。
付き合う前の高杉の表情だ。
何時もこんな悲しげな表情で俺を見ていたんだ。


「前世の、記憶、」


前世?
前から思ってたけどそれは素なのだろうか
銀時と言ったり鬼兵隊やら攘夷戦争やら何やらと。
黙って見つめてると、ついに高杉は泣き始めてしまった。
どうやって慰めるか考えていると高杉は服裾をギュッと握り締め肩をカタカタと震わせている。

「銀時、ごめんなさい先に死んでごめんなさい」


「高、杉…」


「結核、感染したらどうしよって思っていたら会えなくなって、あの時代は不治の病だったから、俺、俺…ッ」


俺は強く抱き締める。
「痛い…」と高杉が呟いたが気にしないで抱き締めた。


「ごめん、思い出せなくて」


「っ…、分かってる」


でも、
いまさら嫌いになれるわけがなかったから―…。


泣きじゃくる高杉の瞳はとても美しかった。


Fin.

高杉視線verも書いてみたいです
 



 
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