酸素のない恋
※同級生
『片思いの時が一番楽しい』と、どこかで読んだ。
両思いになれば相手に嫌われないよう、嫌われないようとしたり安心して適当な態度で振る舞えば相手が離れてゆくからだ。
「何が、」とつい小さく呟いてしまった。なら叶わない恋はなんなのだ、と思ったからだ。
次の授業は移動のため昼休みが終わる5分前に筆記用具に教科書とノート、それと宿題の筈の解答欄に何も書かれていないプリントを持って教室を出た。
他のクラスからまだ甲高い笑い声が聞こえていた。ふと、「きゃはは」と言う声が聞こえて一瞬、教科書を落としそうになった。
前から2人の男女が仲良さそうに此方に向かってくる。
サラサラの栗色の長い髪をなびかせる可愛らしい彼女の隣に銀髪の男が笑って、
俺は下を向いて早く通り過ぎようと足を速めた。
「高杉、次どこ移動?」
「!!!」
教科書をバサバサと落としたのを奴の彼女が凝視した。
「えぇ、大丈夫ぅ?」くらいにしか考えてないだろうな、と思いながら教科書を拾い、「生物室」と出来るだけ冷たく言い放つ。「ああ、そ、ありがと」とまた彼も軽く言って彼女は自然な動きで彼の腕に自分の腕を絡ませ「高杉くんってばあ、暗ぁい、ね、銀時?」と可愛く首を傾げた。
銀時は何も答えずに自分の教室に入っていた。
「ここ、いい?」
「…ああ」
生物室で実験。
暗い、と言うよりも人を寄せ付けない性格の俺は自由に組んでいいと言われたワイワイと騒ぐグループに入る事無く、1人試験管やビーカーやガスバーナーを用意しているとき、銀時と彼女が現れた。
ガスバーナーに火をつけるためマッチを擦ると何もせずに手を繋いでる2人が目に入り、苛々としているとマッチの火が指に、
「……あ、つ!」
マッチを直ぐに水に入れた。
小さな火傷だ。
銀時の彼女は「きゃあ、高杉くん大丈夫ぅ?怪我してない?百合子、心配だよお〜」と銀時を見つめながら言う。
ああ、まあ人を使って更にラブラブになるっていう、ね。
「え、」
銀時は彼女、百合子を押しのけて俺の腕を掴み「先生、高杉が火傷したんで保健室行ってきます」と言ってぐいぐいと俺を引っ張った。
横目で百合子を見ると凄い形相で睨んでいた。俺は見ないふりをして銀時の引っ張る力に抵抗せずに保健室に行った。
「…先生はいないみたいだな」
「座って」と言われベッドに座ると棚から消毒液や氷、包帯を持って銀時が隣に座ってドキリドキリと心臓が煩い。
氷が袋に入ったのをタオル越しに火傷した指につけられた。
「痕、残らないといいな」
「……うん」
緊張してあまり言葉が出ない。
ほら、だって極力話さないようにしていたから。
「高杉…」
「…ッ、な、に」
急になぞられた名前。一気に顔が紅潮するのが分かった。
「何で俺らの事避けてるわけ?百合子の事好きなの?」
「な、違っ」
「百合子は胸デカいし可愛いしな」
「銀、坂田が、」
「え?」
つい、名前で呼んでしまった。あまり喋らなかったからもちろんお互いに名字呼びな訳だが。
「………、〜〜…、」
「…高、杉?」
息が、できない、
ヒュウッヒュウッと過呼吸のようになる。
極度の緊張で身体がザアアッと冷めてゆくのが分かる。
カタカタと震えてると銀時が抱き締めて、え、
「や、だぁっ!」
「ちょ、暴れるなって、過呼吸になってんじゃん!」
「ひゅ、やだ、銀時ぃ」
背中を撫でられ「吸って吐いて」という銀時の優しい声の通りにゆっくり呼吸した。
恥ずかしながら涙で自分の顔が汚くなっていた。
「さっき、名前で」
「………はあ、はあっ」
次は顔が、も、やだ。
包帯を巻かれ銀時は優しく笑った。
「これから、友達として仲良くなろうな、」
「!!!」
酸素がなければ火は起こらない。
「あ、百合子からメールだ」
涙がボロボロと零れ落ちて。
あとは何も、覚えてなんか、
――――――――――
「ん、う…」
「高杉?」
目が覚めると指に包帯が巻かれていた。
暗くなった保健室の窓の外を見ると銀時が気を失った可笑しな俺を心配してくれたのかと自惚れる。
「…帰れよ」
「あ?、なんだよせっかく、」
「帰れ!帰れよ!、お前なんか大嫌いだ、人の気持ちも知らないで、知らない、で…」
「たか、」
叫んだ高杉を見ると綺麗な瞳からポロリと零れ落ちた涙にドキリとしたのは内緒。