コツコツコツ……
仕事用の高いヒールを鳴らしながら二階堂と書かれた表札を通り過ぎ、古めかしい鍵を差し込んで古い金色のドアノブを回すとギィーと耳をつんざく音が辺りに響いた。相変わらず嫌な音だと思いつつも後ろ手でドアを閉め、片手で照明のスイッチを探す。たしかこの辺に……、と手を壁に這わせていると急に奥の部屋の明かりが点いた。
「……え?」
大好きだったおじいさんから貰った大きな家だが、現在住んでいるのは私だけ。不審に思いながらもソロソロと奥の部屋へ足を進めると、明かりがフッと消えた。勿論、私は照明のスイッチを一切触っていない。
「……誰もいないよね?」
小さな声で尋ねるが、返事はかえって来ない。私は奥の部屋までゆっくりと歩み、すぅ……と深呼吸をしてから部屋のドアを開けた。
ガチャ……
ドアの隙間から覗いてみるも、暗闇で何も見えない。片手をドアの隙間から入れて明かりを点けようとした時、グイッと急に腕が引っ張られて中に連れ込まれた。
「うわっ!!」
真っ暗な部屋でドンッと壁に背を打ちつけられ、う"っ……と声をあげてしまったが、相手はそんなことを気にせずに私に声をかけてきた。
「お主は誰だ?」
低い男の声だった。
「わ、私はこの家の持ち主ですが……」
「そんなことは聞いておらん。お主の名を問うておる」
「二階堂 カンナ、です」
「ほう、お主がカンナか」
男が暗闇の中でクスッと笑った。その笑い方はまるで私を馬鹿にしているような笑い方だった。
「あ、貴方は誰ですか?」
内心カチンときたが、この家に帰ってきた時から思っていることを尋ねてみた。今この状況で暗闇以外に私を不安にさせていることである。
「我か?我はお主の祖父、タツロウの友だ」
男から帰ってきた予想外の返事に一瞬、我を忘れた。
確かに、タツロウはこの家を私にくださったおじいさんの名前である。しかし、おじいさんは80歳を過ぎて亡くなった。そのおじいさんの友達がこんな若い声をしているのはおかしい。
「あの、明かりを点けてもらえますか?」
男のことを不審に思ったが、とりあえず明かりを点けてもらおうと声をかけてみた。運が悪ければ明かりが点いた時点で殺されてしまうかもしれない、という考えはこの時だけは私の頭の中から消え去っていた。
「……いいだろう」