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 氷を思わせる冷たい声がその場に響いていく。その声にぞくりとしながらもなんとかして逃れようと暴れる彼の姿に少女は興味をもったのか、その口調を柔らかなものへと変化させていた。

「お前、見た目よりも骨があるのかしら? この頃、巷を騒がしているハンターってお前のことなのね」

 そういうなり、少女の瞳がまっすぐに彼の顔をとらえている。その視線に魂までも絡められそうだと思い、逃げようとしてはみても叶うはずもない。そんな彼の姿を少女は楽しそうに見ていると唐突に戒めていた手首を解放する。途端にたたらを踏むように崩れ落ちる彼に向って、少女は勝ち誇ったような響きを含む声を投げつけていた。

「気に入ったわ。わたくしのところに来ない? 今よりもその方がお前にとってはいいことだと思うけれども?」

「なぜ、そんなことを口にする。そして、俺がお前に与する理由などあるはずもない」

 立ち上がるよりも先に少女を睨みつけ、そう口にする彼に向って少女は嫣然とした笑みを浮かべ、言葉を続ける。

「お前はわたくしたちと同じ存在じゃない。だとしたら、こちらに来る方が道理に叶っているのではなくて? そうではないのかしら?」

 そう言うなり、少女は彼には興味をなくしたようにその場を後にしている。その姿を引き留めようにも、その時の彼には動く気力すら残されてはいない。ただ、少女の顔を姿を忘れることがないようにと睨みつけることしかできなかった。

 一体、あの時の少女は何だったのか。そして、どうしてその少女の言葉をいつまでも忘れることができないのか。

 首筋に総毛立つ物を感じることなど、普段では考えられることではない。そして、それだけの威圧感を放つ相手が彼をそのままにしていったのも納得のいく話ではない。そして、その日から彼は魂がその少女に縛られでもしたかのようにその姿を求めていた。彼自身、どうしてそんなことをするのかがわからぬまま、その日もいつもと同じように部屋から出ようとしていた。

 その時、微かに開いていた窓から吹き込む風が彼の持っていた絵姿をフワリと宙に舞い上げる。それに手を差し伸ばした彼は、改めて絵姿の母に語りかけていた。

「母さん、俺はどうすればいい? そのうちに答えは出るんだろうか?」

 その問いかけにも応えがあるはずもない。そのことを分かっているのか、彼は大切そうに絵姿をしまうと静かに部屋から出て行っていた。彼の魂を縛ったともいえる少女に再び巡りあうために。


- おわり -



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