「三好くん。一本ちょうだい」
朝食を済ませ賑わう食堂で、目を細めてティーカップを傾ける三好くんに声をかけた。思わず何だその表情は、と突っ込みたくなったけれども、我慢。
「はい、どうぞ」
私の声に振り向いた三好くんは、にこりと微笑んでケースごと煙草を差し出す。
それを受け取りありがとう、と一本取り出してくわえた。
「火を」
そう言ってテーブルにのせたままの左手にマッチ箱をちらつかせているが、それをこちらに寄越してくれる気配はまるでない。
その意図を理解した私は、煙草をくわえたまま三好くんの身に顔を寄せ髪を耳にかける。
彼はその様子を少し下から覗きこむようにして、やっと左手に握る箱から先端の赤いマッチ棒を取り出し、軽快に一擦りして火を灯した。
そこから私のくわえる煙草にそっと近付け、先端が煙を吐くのを確認すると煌々と燃える赤い炎にふぅ、と軽く息を吹きかけ、いまだ煙をあげるマッチを二、三度振ってから灰皿にぽとりとその残骸を落とした。その表情は実に満足そうで、相変わらず一つひとつの動きが気障だな、と思いながら煙を吸い込んだ。
「香水変えました?」
座っている三好くんに合わせて屈んでいた姿勢を戻そうとした瞬間に、今度は向こうが顔を寄せてきた。
「よくわかったね。煙いのに」
「誰に何を言われたんです」
「誰だと思う?」
こんな会話だけ切り取るとまるで誤解を招きそうだが、私と三好くんは何も特別な間柄ではない。ただ、この三好という人はいつもこうなのだ。会話をするにも相手の裏を読み、隙をつき、優位に立ちたがる。あといちいちかっこつけ。ナルシスト。
けれど、その性質が鋭い見解を示すことが多々あるのも事実。現に、この香水を身につけるよう言ったのは他でもない結城中佐である。その理由も実に業務的で、機関員の誰がそれぞれどのような反応を示すのかそれを見ろとのお達しだった。
……まあ、三好くんがそこまで見透かしているのかはわからないけれど──
「少なくとも僕じゃない」
顎をしゃくるように斜め上辺りを見つめながら返ってきたのはそんな返答。
本当に息を吐くように気障だなと思った。
「煙草は」
「え?」
「僕の銘柄を真似たくせに」
「……たまたま、でしょ」
そう、偶々。
一番最初に声をかけてくれたのが偶々三好くんだった。
その時にその銘柄を勧めたのは貴方でしょう。
「偶々ですか……」
ふ、と一つ息を吐いて目を伏せた三好くんは、悔しいがすごく様になっていた。
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