田崎くんと話していると、彼は基本的に笑顔でいることに気付く。常にへらへらしているということではなくて、任務中、講義中といった真面目な場面以外で接するときに彼はいつも笑っているのだ。

「若宮の食べてるところって可愛いよね」
「……それに何て返せば良いの?」

やはりにこにこと楽しそうに、私が食事を口へ運ぶ様を正面で眺めながら呟かれた言葉に対して口をついて出たのは純粋な疑問だった。ありがとうとお礼を言えば良いのか、そんなことないと謙遜してみれば良かったのか……会話に正解を求めてもしょうがないけれど相手は田崎くん、当たり障りのないことを言ってもまた不毛なやりとりが繰り返されることだけは確かだった。

「ん?んー……そうだね、困らせるつもりはなかったんだけど。単純に思ったことを言っただけだよ」
「ああ……そう」

まあでも今思ったというよりずっと思ってはいたんだよ、とやはりこれもまた返答に悩むようなことを言うものだから困らせるつもりはないって言葉は嘘なんじゃないだろうか。

「眉間に皺が寄ってるけど。それも悪くないね」
「……」

相変わらず上手い返しは思い付かないけれども正直言うと田崎くんのこの褒め殺し……と言っていいのかは不明な、とにかくこの戦法に慣れてきているのも事実だった。最近ではそういった台詞を吐かれる度にふむふむ成程、と頭の片隅で感心していたりもする。一通りの食事を終えて御馳走様でした、と箸を置くのをただ見つめられている今の状況がどうにももどかしいが、こほんと一つ咳払いをして田崎くんに向き直った。

「ねえ」
「うん?」
「田崎くん青いスーツ着るじゃない、あれ素敵よね」
「そうかな?ありがとう嬉しいよ」
「……」
「ん?」
「真似してみたの。田崎くんが褒めてくれるの」
「あれ、じゃあ本心じゃなかったかな?」
「本心よ。あのスーツ姿好き」
「良かった」

次のデートで着ることにするよ、とにこりと微笑むのででもあれ伝書鳩用じゃないのと問うとそうじゃないのもあるよと言われた。それはそうだ。

「私、相当貴方のおだてに慣れたと思う」
「別におだててるつもりは……」
「そうね、きっとないのよね」

知ってる、と言えば厳しいなあと少し悲しそうな表情をしてみせる。それすらもああはいはいそうね、と流してしまいそうな程に私は田崎くんに対してわかったつもりになってきていた。

「じゃあ例えばなんだけど」
「うん?」
「いつもとは逆に、私を貶してみてよ」
「え?いやいやそれは出来ないよ」

どうして?と詰め寄る私にそれは俺の専門外だ、と申し訳なさそうに返す。成程専門、と表現されれば確かにその担当は別にいる気もする。三好くんとか三好くんとか、あと三好くんとか。

「けど本当は貴方だってその気になれば出来るでしょ」

田崎くんの普段と違うところ見たいわあとわざとらしく甘ったるい声で迫ると参ったな、とよく聞く台詞をよく見る表情で返された。それでもいつもよりは幾らか本当に困っているようだけれど。

「若宮にはもう結構色んな俺を見せてると思うけどな」
「ええ……?まだまだでしょう」
「欲張りだね」

にこやかに笑って田崎くんはまあ俺もまだまだ君を見ていたいしねと私の指に自分のそれを絡ませる。

「そのスキンシップにも慣れたかも」
「そっか。じゃあ君が驚くような仕掛けを考えないとね」

心臓に悪いことはやめてねと求めるとさあどうしようかなと悪戯に目を細める。それでもやっぱり口角は上がっていて、まるで悪い遊びを思い付いた子供の様な──しかし子供にしてはとてつもなく頭が切れて絶対に私の手には負えないであろう彼に、慣れただなんて迂闊なことを言ってしまったことを少し、いや大分後悔した。


 
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