雨と風が止まない夜だった。風はごうごうと煩くて激しい雨の打ち付ける音も相まって、最早台風のようだ。
それに耐える建物も改築したと言っても元が知れているのでガタガタと窓は揺れ、叩きつける大粒の雨にガラスが割られるんじゃないかとすら思える。眠るにはまだ早い時間で、自室で本を読んでいた私の視界がぱっと暗くなる。停電だと悟り窓の外に目を向けるとここから見える範囲で明かりがついている建物は視認出来ず、どうやらこの辺り一帯を巻き込んだものらしかった。さてどうしたものか、眠ってしまえばいいのだろうけれどこれだけの豪雨となるとなかなか落ち着かず。とりあえずここは食堂にでも向かってみるかと思い立つ、きっと誰かはいるだろう。
真っ暗な廊下を渡ると食堂の扉は開いていて、中から微かに灯りが漏れていた。聞こえてくる話し声から、そこにいる人数は多くはなさそうだった。

「勢揃いじゃないのね」
「若宮か……早いよ」

早い?溜め息交じりに肩を竦める神永くんの言葉に疑問符が浮かぶ。そんな私をよそに神永くんは片肘をついているテーブルに無造作に金──おそらくは掛け金、を差しつけた。ああそういうこと、と状況を飲み込むけれど。

「もっとやることなかったの」
「こう暗くちゃあね」

神永くんの対面に座る甘利くんはテーブルの真ん中に置かれた火の灯る蝋燭をちらりと見やって苦笑する。次にこの場にやってくるのは果たして誰か?ということすら賭けの対象にするほど、この暗がりの中では可能なことは限られていた。

「それにしたって何かあるでしょう。もっとこう……建設的な」
「建設的な?」
「え」
「ん?」
「……生産的な?」
「……」
「……若宮罰金な」
「え……嘘でしょ?」
「嘘なもんか」

にやりと意地悪く笑う神永くんに口角がひくりと反応した。それを見た甘利くんがおいおいここでも嵐は止めてくれよ、と冗談めかす。

「外に出てくればいいじゃない。神永くんならずぶ濡れの水も滴るなんとやらがすぐに寄ってくるわよきっと」
「お前をまず放り出してやろうか」
「おいって……」
「ごめん甘利くん、けど冗談だから大丈夫」
「俺は冗談じゃないけどな」
「神永くんは外に出ないならもう寝たら?」
「一緒に寝てやろうか」
「良いわよじゃあ私の部屋に行きましょう」
「は、冗談だろ」
「……」
「俺の勝ち」

ほら罰金、と片手を差し出す神永くんはもう差し置いて、空いている椅子を心持ち甘利くんの方に寄せてやっとそれに腰掛けた。

「甘利くんは私が来るってわかったの?」
「あ、いや君は部屋も一人だしやっぱり不安になってるんじゃないかと思って」

そう考えると来ると思ったと言うより俺が早く来てほしかったんだな、と軽く笑う甘利くんにくらりときてしまうのを自重しろと言われても無理な話だ。

「こいつが停電ごときで不安?そんなにしおらしくもないだろ」
「神永くんって私のこと嫌いなの?」
「おいおい愛してるに決まってるだろ?」
「うわあ嬉しい」
「嘘が下手過ぎやしないか?」
「神永くんには負けるわ」
「それはそれは」
「ねえもう良いでしょ……」

折角甘利くんに癒されたのにこうもすぐに水を差されてはたまらない。何より愛してなんていないくせに酷い軽口だ。はいまた俺の勝ちと得意気に宣う神永くんを見ていると暇を持て余すとこうもくだらないやりとりを生んでしまうのか、なんて考え目を伏せた。

「……なあ若宮」

そこに甘利くんから思いがけず神妙な声が掛かって何事かと顔を上げると、つい先程までへらへら笑っていた神永くんもいつの間にか真顔でこちらを見つめている。

「その……三好と」
「ないから」

二人が真剣な表情になった時点で何となく予想は出来た。悲しいことに、それほどこの質問を投げ掛けられるという状況に慣れてしまった。

「普通に考えてよ、有り得ないでしょう」
「いやまあ……そりゃあな、そうなんだが」

言いながら甘利くんがちらりと神永くんに目配せするとなあ?とそれに合わせて相槌を打つ神永くん。

「そりゃ他の奴……例えばお前と波多野なら有り得ないよ?けどさ、相手が三好となると……」
「まあ……そういうことだな」
「え……そういうことなの?」
「だな」
「……」


自室に戻って二人の言葉の意味を考えた。彼等が言うには“三好くん相手なら有り得る”と、そういうことだと。波多野くんに言われた“三好くんは私に甘い”という言葉と重なって、やっぱり自分は三好くんに頼りすぎているのだと、少なくとも周りにそう見られているのだと思うと急にとてつもない情けなさに襲われた。……考えなくては、けれども考えたくない。
相変わらず停電は続いていて外の嵐も収まる気配はない。けれども少しうるさくて気が散るくらいの方が今の私には程良い。暗闇の中暫く思案して、ベッドに入って目を瞑ると同時によし、と私は一つ決意した。


 
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