「若宮、三好と寝たのか?」

あまりの直球に息が止まるかと思った。いや、むしろ“抱かれた”ではなく“寝た”とわざわざ言い換えてくる辺り変化球と言うべきか。

「寝てない、有り得ない」
「なんだ、つまらないな」
「……」

むしろ仮に私達が関係を持っていたとして波多野くんがどうやってそれを楽しめるというのか……これは彼のただの戯れだ、真面目に取り合う程馬鹿を見るに決まっている。

「田崎の次は三好か……お前も案外やるな」
「……」
「否定しないんだな」

隣の椅子に腰掛け頬杖をついた波多野くんに斜め下から覗きこまれると、話すようになる前に感じていたのとはまた別の恐れを感じずにはいられない。波多野くんのこの迫力ってどこからくるのだろう。

「……わざわざ否定するまでもないと思って」
「けどあの時お前が否定しなかったから今こうして聞いてるんだろ?誤解はほっとくと新しい誤解を生むんだよ」
「……」

言い返せない私とは対照的に薄ら笑いを浮かべている波多野くんはいつもより饒舌でからかうのが楽しくて仕方ないといった様子だ。

「……とにかくあんなの冗談に決まってるでしょ」
「冗談?何もない状態から三好があんなでまかせを言うっていうのか?」

……鋭い。確かに三好くんは多少捻くれていたりきつい言い方こそするけど、全くの嘘をついたりする人ではない。むしろ笑えない冗談なんて無意味でしかないと忌み嫌う様なタイプだ。

「……」
「何かはあったんだな」
「……」
「何があったんだよ。教えろよ」
「……嫌」
「ふーん。話せないようなことか」
「そういうわけじゃないけど……」
「けど?」
「もう勘弁して……」

項垂れた私を見かねてか、波多野くんはいつものポーズになると思い切り椅子にもたれ掛かってギィギィと椅子の脚を軋ませながら天井を仰いだ。

「……私がふざけすぎたの」

ぽつりと呟いた言葉に先程までの勢いはどこへやら、波多野くんは何も言わずただ椅子を揺らすだけ。

「三好くん何だかんだ優しいから怒ったりはしなかったけど。内心呆れられたかなとは思う」

だからその仕返しかなって、と独り言の様に出てくる私の言葉に本当に優しい奴は困らせる様なこと言わないけどな、とこれも独り言の様に返ってきた台詞は波多野くんらしいと思った。

「そもそも俺は三好が優しいなんて思ったことないけどな。優しいのはお前にだけだろ」
「……そう、なの?」
「優しいっていうより甘い、だな。お前には甘いよ、あいつは」
「……私それに甘えてるのかな」
「さあね」

自分で考えろと立ち上がって波多野くんは離れていった。そう言われても何をどう考えろと言うのよとやきもきしてしまうが、あの夜の──三好くんに抱き締められた件は私の甘えが引き起こした事故だったんだと思うと、波多野くんの発言が急に説得力があるかの様な気持ちになって、一層私の心をざわつかせるのだった。


 
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