田崎くんと二人で出掛けた三日月の日から次第に月が満ちていって、順調に行けば今日が“第二回協議会”の筈だった……のだけれど。

「雨よ……田崎くん」
「雨だね……」

ここ三日程続く雨でどうなるだろうかと気にかけていた今日のことだけれども、どうやらまだ降り続く様だった。さてどうしようかと田崎くんに目で訴えてみるとん?と笑顔を返される。

「今日は無理に外に出なくていいんじゃない?」
「君がそう言うなら構わないけど……残念だな」

特にいつもと変わらないトーンで言われるのでどの程度残念がっているのかいまいち伝わってこない。

「けど折角だしこのまま話し相手になってくれない?私雨の日ってなかなか眠くならないの」
「若宮雨好きだよね」

窓際の席に向かい合って座ると田崎くんが手は握らないの?と驚く様なことを宣うのでさすがにここではと断る。

「皆に見せつけたかったな」
「それ以上に面倒な代償を支払うことになるわよ……」

それも構わないのにとけろりと言ってのける田崎くんにすこし頭痛がしてきた。田崎くんって天然ジゴロなんだろうか。

「若宮はどうして雨が好きなの?」

どうして?と問われると特に、としか答えようがない。強いて言えば眠る時に雨の音がすると心地良いから、とか?虹がどうとか滴る雫が反射してどうとかの大した理由もなくてごめんねと謝ると充分ロマンチックだよと返ってくる。田崎くんの求めているものってやっぱりいまいちわからない。

「田崎くんは雨は好き?」
「そうだな……どちらでもないけど濡れたくはないな。けど君と一つの傘に入れるならそれもいいかもね」

思わず変な声が出そうになる。田崎くんと“他愛もない”会話をしようとするとかなりの確率で歯の浮くような台詞を聞かされている。気のせいではない。

「……あの、田崎くんって」
「うん」
「私を落とす対象か何かだと思ってない?」
「……そんな風に見えてるのかな」
「そんな風にしか見えない」

私の言葉に肩を竦めて見せるこの動作すら彼の中ではきっと決まりきったものだと、田崎くんという人を知ろうとしてからどんどん穿った見方になっている自覚がある。

「田崎くんのそういうところって単に誰にでも人当たりが良いのかと思ってたけどきっと違うのよね」
「……」
「何をどうしてどんな言葉を掛けて……って決まっているものが既にあって、それをしておけばいいと思ってるのよ。要は見下してるんでしょう」
「……そう思う?」
「そうとしか思わない」

真顔の田崎くんをじっと見つめるとふと俯いてまたすぐに顔を上げる。その口元はうっすらと弧を描いていた。

「なら君にはこれからそれが真実かどうか見極めてほしいな。俺を見ててくれるんだろ?」
「……ちゃんと答えを教えてくれるの?」
「君に嘘はつかないよ」

その言葉すら嘘なんじゃないかと疑ってしまえばそれまでなので素直に信じてみることにする。約束よと念を押すと指切りでもする?と小首を傾げられたけれども遠慮しておいた。

「そういえば俺も若宮に確かめたいことがあったんだ」
「うん?」

田崎くんは口に手を当てると内緒話をするように顔を寄せてくるので私も身を乗り出して耳を寄せる。

「あのさ、三好に抱かれたの?」

……囁かれた言葉に一瞬くらりと目眩を覚え、ここに座った瞬間にまず弁解しておくべきだったと後悔した。無言のまま目を合わせてゆっくりと首を振り続ける私にじゃあ良かった、と漏らしたのもきっと彼の中での“こういう場合の切り返し方”だから、その真意を探ろうなどとは考えなくても良いのだ。尤も、私としてもその質問の意味と合わせて深く考えたくもないことで、きっと丁度良いのだと、無理矢理自分を納得させた。


 
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