福本くんと並んで夕食の後片付けをしていると、食器を下げに来た実井くんの視線を感じた。

「何?どうかした?」
「いや……若宮、少し痩せたんじゃないですか?」
「え」

実井くんの言葉にパッと顔を上げるとその大きな瞳と目が合って、まるで見定められる様にじっくりと見つめられる。

「本当に?」
「何だか頬の辺りがほっそりしたような……気のせいじゃないと思うんですけど」

顎に手を当てて探偵よろしく目を凝らす実井くんの発言に、内心喜びを感じながら隣で黙々と食器を濯ぐ割烹着姿の福本くんを見上げる。

「福本くんはどう思う?」
「……どうかな、特に何も感じられないが」
「……ああそう」

がっくりきたのをきっと見透かされたのだろう、クスクスと笑う実井くんにまた目をやると僕はやっぱり変わったと思いますよと言ってくれた。この実井くんの発言というのが地味にポイントなのだ。福本くんは任務以外で普段他人に興味を示さないから今回だってきっと大して関心がないのだ。と思いたい。

「そんなに痩せたいものか?」

目線を動かさずぼそりと呟く福本くんに結城中佐にジゴロの特訓してもらったら、と告げると何のことだと言われたのでもういい。任務外の彼はもういい。

「女心ってやつですよ、ね?」

すかさずフォローを入れる実井くんはやっぱり只者ではない。さすが生来の人たらし。

「女心が何だって?」
「出た伊達男」
「はは、ありがとう」

褒めていない。いつの間にか実井くんの隣にやってきていた甘利くんは何がどうした?と説明を求めてきた。それに対する福本くんの若宮が痩せたんだと、との簡潔過ぎる返答に成程と一つ頷きすぐさま私を見つめる甘利くんはやっぱり伊達男だと思う。

「そうだな……何だか顎回りがすっきりしたんじゃないか?」
「ええ、顎より頬じゃないですか?ほら良く見てください」
「……」

じっと刺さるような視線も、二人となると逃げ場がなくて居心地が悪い。新しい訓練か何かだろうかという気さえしてきた。

「……ねえ、もういいから」
「そうだな、レディを見つめすぎるのも失礼だ」

そう思うならはじめから、とは言えずにふう、と一つ息をついた。

「へえ、君ってレディだったんですね」

すごい。このタイミングでその台詞で割って入ってこれる神経がすごい。空気を読めと目の前に現れた三好くんをキッと睨み付ける。

「あれ?僕の知っているレディはそんな目付きはしない筈なんだけど……」

おかしいですねと首を傾げる三好くんが白々しすぎて憎々しすぎる。

「そんな話題で盛り上がっていたんですか?若宮がレディかどうかなんて話すまでもないじゃないか……」
「いや違うぞ、若宮が痩せたかどうかって話だ」

福本くんもう黙って、と言いたかったけど遅すぎた。彼のこういう面は本当に計算ではないというのが疑わしすぎる。

「へえ、尚更どうだって良いな」

そのどうでもいいことをつついてくるのがあなたの質の悪いところでしょう……本当にどうでも良いと思うなら早くどこかへ行ってほしい。……という私の願いが通じるはずもなく、突如顎に走る衝撃。

「……痛いんだけど」
「そうですか……」

作業に戻ろうと俯きかけたところを三好くんに顎を掴まれて強引に正面に向き直させられる。意地でも下を向こうとする私とそれを阻止して顔を上げさせようとする三好くんの力がぐぐぐぐ、とせめぎ合い膠着状態を保つ。容赦というものを知らない三好くんに掴まれた顎がそろそろ悲鳴をあげそうで、というかどうして誰も止めてくれないの。

「ほら……確認して、あげますから……こっちを見てくださいよ……」
「嫌……見ない……」
「見ろよ……」

お互い何をムキになっているのかわからないけれど最早退くに退けない状態になっているところに、漸くかかった甘利くんからの二人とももう良いだろうとの声に三好くんの手の力がパッと抜けた。その反動でガクッと弾んだ私の顔を冷めた目で見つめる三好くんを睨み返すと、三好くんは涼しげな顔でフッと息を吐いたかと思うと不気味なことに一瞬さらりと笑顔を浮かべ、気が済んだのか食堂を出ていくみたいだった。本当に面倒な人だなと思いながら今度こそ開放感から安堵した時。

「良く考えたら君の顔なんて普段そこまで気にしていないから見たってしょうがないですよね」

出口に差し掛かる寸前にくるりとこちらを振り返った三好くんにまだ言うか、と思っても最早反論する気すら起きない。しかしそれがいけなかったのか、もう良いから早く出ていって……と切に願った私の思いを嘲笑うように悪魔のような一言を彼は放つ。

「そもそも見るより確実な方法があるじゃないですか……君の体なら抱いて確かめてあげますよ、この間みたいに」

それだけ言ってパタン、と扉が閉められた……瞬間、残された私達の間の空気がピシリと固まった。実井くんと甘利くんは勿論、福本くんでさえ一瞬動きを止めたのが分かった。……のに、次の瞬間には何事もなかったかの様にすすっと席に戻る二人と食器を濯ぐ福本くん。そのうえ今まで私達の会話に加わらずに席に座っていた他の機関員達の視線を痛いほど感じる。あの笑顔はこれが狙いか、と沸々沸き上がる怒りと居たたまれなさになかなか顔を上げられない。結局誰も突っ込んでくれず……その夜は言い訳すら出来なかった。


 
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