「ねえ若宮、もし無人島に二人きりになるなら誰とがいいですか?」
「……結城中」
「ほらな」
「やっぱり」
「全員正解ですね」
「……」

実井くんの問いかけに答えた……正確には答えかけただけなのに、何故こんなにモヤモヤしないといけないのかわからない。

「納得できないとでも言いたそうですね?分かりやすいんですよ、君は」
「……賭けたの?私で」
「いけませんか?」

悪びれる様子もなくしれっと答える三好くん。そしてその周りの七人のそれが何か?という表情。この人達……いや、この化け物達と過ごすようになって大分慣れた筈だったんだけれど。

「……全員正解ってことは私が皆に罰金払えって?」
「まさか、とんでもない」

意外と良心的な返答におや、と驚く。では一体何を──

「全員第一関門突破です。ここからが本番ですよ」

前言撤回。

「……どういうこと」
「よくあるだろ?要するにこの中から誰を選ぶかって話」
「そうじゃなくて」
「結城中佐のことですか?君の捻くれた考えなんて全員お見通しですよ」

クスクスと馬鹿にしたような態度で言われると不愉快な気分に更に拍車がかかる。そして三好くんにだけは捻くれているなんて言われたくない。

「さあ選んでください、君のフライデーを」

大して上手くないと突っ込みたい。ふざけてるのか……いや、むしろそれも計算の内か。

「……まず三好くん、そんな態度で選ばれる自信があるの?」

負けてはいけない、何の勝負かもよくわからないけれどこのままでは何だか悔しい。その一心から私なりに強く出たつもりだった、が。

「え?いやいや若宮、まず前提から間違ってますよ?そもそも僕が君と無人島で二人きりになりたいと思うと、そう考えてるんですか?」

やられた。目を丸くしてわざと大袈裟に驚いたふりをする三好くんが憎たらしいことこの上ない。まあまあ、と間に入って宥めようとしてくれる甘利くんのひきつった笑顔が余計に物悲しさを際立たせた。

「だいたい前提といえば、先の君の軽率な回答ですが君は本当にあの結城中佐と無人島で二人きりなんて状況に耐えられますか?」
「……」
「耐えられますか?」
「……無理」
「ほら」

そうでしょう?と肩をすくめてみせる三好くんに返す言葉が見つからない。確かに私が結城中佐と発言したのは、どうせ皆で良からぬことでも考えているんだろう、思い通りになどなるかという思惑が瞬時に過り、だからこそ絞り出した答えだった。まあその思考こそが彼等の標的になっていたわけだけど。

「あの、そもそも繋がりなんですけど」

口を開いたのは実井くんで、顎に手を当てるいかにもな立ち姿で注目を集める。

「そもそも結城さんなら、例え無人島に漂着しても泳いで帰るんじゃないですか……?」
「あ」
「いやいや無人島だぞ?いくら何でも……」
「万一泳げる距離じゃないと判断したならいかだを作って脱出を試みるんじゃないか?」
「何にしても漂着してから一週間もせずにいつもの感じであの椅子に座ってそうだな……」
「やっぱり魔王か……」

機関員達の勝手な憶測が飛び交い始めたところで三好くんがはあ、と溜め息をついた。そして小さく首を振りながらこれ以上は不毛だな、とぽつりと呟く。
助かったと思った。正直、この中から本当に誰か一人選べと言われたらとてもじゃないが無理だ。ただ選ばれる側ならまだしも、この化け物達を相手に全員を納得させるような答えなんて持ち合わせていない。
これ以上面倒なことにならないうちに……と食堂の出口に向かおうとした。

「若宮」

足を踏み出そうとしたまさにその瞬間私を呼び止めたのは三好くん。

「……何?」

よりによって三好くんだもの、悪い予感しかしないが無視するわけにもいかず平静を装って振り返った。

「中断しましたが元の賭けは僕らの勝ちです。きっちり支払いお願いしますね」

にっこりと圧力をかけてくる三好くんに、いつの間にか議論を終えて彼の言葉に同調するように微笑む七人。ああ、きっとここまで全てが仕組まれた流れだったんだと悟った私はがっくりと項垂れた。この中からフライデーを選ぶなんて、それこそ不毛だ。フライデーは野蛮人ではあっても、決して化け物ではないのだから。


 
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