※リアカーっ子×ボクっ子
※自分設定と捏造注意














ボクっ子は、態度がデカイ。

それはほとんど不遜といってもいい。オレはなぜだかいくつもの不運と偶然と運命が重なった結果誰よりもボクっ子の近くにいることになっているが、この高校に入るとき、ボクっ子の世話をしなければならないなんていう契約はした覚えがなかった。だから、ただのクラスメイトよりはやや近しい関係(なぜなら同じクラスかつ同じバスケ部だからだ)なだけのボクっ子のワガママを、なんでもウンウンハイハイと聞く必要はないわけだ。


「たかお」


それなのに――それなのに、だ。
にも関わらず、ボクっ子はいつも困ったときには必ずオレを呼んだ。ヤツは不遜に見えて人見知りで、皆が思うほど自信にありふれているわけではないと知ったのはつい最近だった。
バスケとシュートにおいて存分に発揮される自信と自負は、日常生活に入った途端に急速に鳴りを潜めた。同じ部員に話しかけるのであっても、オレがどこかでボクっ子を見ているという確信がなければ不可能にもなった。自分がホークアイを持っているのがこれほど幸運だと思ったことはない。オレの広い視野のなかでボクっ子が少し気後れしたような表情を見せたら、その瞬間していたことを直ぐ様切り上げて駆け寄ればいいのだ。それでボクっ子は安心して、またオレに来るのが遅いだのなんだの歯切れの悪い文句がいえるようになる。

そんなことを思うままに語っていたら、ボクっ子が眉をひそめ、また困ったような表情をしてオレを呼んだ。


「なに?」

「…そこまで考えていながら、なぜオマエはボクの近くにいるのだよ」

「あーうん。そうな」


オレは正直な話、気が長い方ではない。かつてオレの隣にいた女の子たちは、その大概が一回は「高尾くんって怒りっぽい」といったことがある。だからなんだ、これがオレの性格だと子供っぽく喧嘩をし、ほらやっぱりと離れていった子も一人や二人ではなかった。

そんなオレは、当然のことながらボクっ子のワガママに腹をたてて怒鳴ることが少なからずある。チャリでリアカーひっぱれだの今すぐ迎えに来いだのおしるこを買ってこいだの、ボクっ子の要求は大体がよく分からない理不尽さを感じさせるからだ。昔のオレに言わせればそれだってボクっ子の性格でありオレが文句をいう余地などないわけだが、だからといって今のオレが怒鳴ってはいけないという理由もない。彼女たちが捨て台詞のように残したオレの怒りっぽさ。それはまだ、今のオレには捨てきれないようだ。

ボクっ子は時おり、ぽきりと折れてしまいそうなほどの儚さを見せるときがあった。態度が不遜とはいえ表情はそう固くもないボクっ子だから、それなりに話す相手だって出来ていた。けれど、例えば誰かと話しているときや誰かと何かをしなければならないそんなときに、近くにオレがいないということが分かった瞬間、その瞳は不安と動揺、それからかなしみに揺れるのだ。オレはそれがとても儚いと、今にも消えてしまいそうなボクっ子を見てそう思った。
思うだけがオレにも感染したようなかなしみに変わり、結局オレはボクっ子の側へ戻って迷惑だとでも言いたげな瞳にハイハイと返すことしかできなかった。ボクっ子の理不尽なツンへの耐性はこうして積み重なってきたように思う。


「…よく分かんねぇ」

「………」

「オレがこわい?」


そう聞いたら、睨むというよりは困った風に表情を変えて、そんなことないと眼鏡の真ん中をそっと上げた。ボクっ子は大変に分かりやすい。

滅多に見下ろしたことのないボクっ子の顔は、オレが思っていたよりはずっときれいだった。化粧のノリがどうの日焼けがどうのという女の子たちよりもという気はさすがにないが、男子高校生でありバスケ部員であることを考えれば、ボクっ子の肌はしろくて触ればとても柔らかい。悪くない、ってきっとこういうことだ。

いつもは不遜なその態度が、ひっくり返してみればこの有り様だった。虚勢だったのかの前にはやっぱりという言葉が引っ付き、ボクっ子に触れる手が大胆になる。頬から首もとへ、怯えるような瞳にキスを落として、きっちりと閉められた学ランの前ボタンをぷちりと外す。ボクっ子の抵抗はないままだけれど、多分頭ん中がパニック状態だからだろう。

――それともと、それこそ半ばさみしさを感じながらボクっ子の目が開かれるのを待った。不思議そうに恐る恐るオレを見返した、その瞳にゆるりと笑んで。


「…オマエがオレに安心するのは、オレが安全だって思ってるからだろ?」

「たか、…?」

「なあ。そうだろ」

「っ、…そう、だよ。それの何がわるいのだよっ」


今にも泣き出しそうなボクっ子の声をのみこんで、開けた第二ボタンの上に右手のひらをあてた。小動物みたいに速い鼓動。何が悪いかっていえば、それはこんな歪んだ想いをもったオレが悪い。それでも、その安全圏としてオレを思う、ボクっ子の気持ちが痛かった。
誰よりも想うことを禁じられているオレが、一番ボクっ子を想っていたから。


でもそんなことはどうでもよかった。今まで通りの均衡を破ってしまった、今となっては。


シャツ越しにぺたりと心臓に触れた。とうとう涙が零れだした深緑、その耳元へちいさくちいさく囁いた。


「…すきだよみどりま」




ンチループ
(ごめんな、ごめん)
(きっとオマエには届かない)
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