※高尾(秀徳)×緑間(帝光)











その瞬間よぎったのは、およそ非科学的な単語の羅列。


「はろーまいねーむいずカズナリタカオ」

「…なんだ貴様は」

「あれ、今オレ自己紹介した気満々だったんだけど」


部室の窓から(大事な事なのでもう一度いおう、窓からだ)唐突に現れた学ランの男。名乗ったらしいがよく聞き取れなかったその不審人物A(仮)は、部室内に足を踏み入れるなりきょろきょろと周囲を見渡して興味深そうにへぇ、と頷いている。


「ここが帝光かー。オレ初めて来たわ」

「…何者なのだよ」

「だから言ったじゃん。高尾和成」

「先ほどのと随分違う、この不審者」

「あらやだ、オマエこの歳からそんな聞き分けない子だったの」

「その不愉快な話し方をやめろ。馴れ馴れしい」

「ふはっ、なんか笑える」


全く会話のかみ合わない相手というのは気持ちが悪い。不審者は無遠慮に部室内を徘徊し、満足したのかまたオレの側まで戻って来た。思わず身を引く。


「そんなに怯えんなよ」

「…生憎不審者と馴れ合う気はない」

「傷つくなあー」


言葉と表情が全く合っていない。
それでも初めて貼りついたような表情を崩したように思えて、不審者が少し距離をとって目の前に座るのを黙って見ていた。何をする気だとにらみ付けたが、不審者は特になにをするつもりもないらしい。

つかの間の静寂が、巻きかけのテーピングがはらりと床に落ちたことでまた流れ始める。どうしてか不審者を無理矢理追い出す気にもなれず、不本意ではあったがそのままテーピングの続きをしようとそちらに目を向けた。
…けれど、落ちたテープの切れ端を拾ったのは、自分ではなく目の前に座って微動だにしていなかった不審者の方だった。


「…オレに巻かせてよ」

「触るな。不愉快だと言ったろう」

「うん」


不審者はオレの嫌悪に満ちた眼差しをものともせずに、軽く握っていた左手を躊躇いなくとった。その所作があまりにも柔らかくて、一瞬拒否をするのが遅れてしまった。そんな自分が戸惑いに揺れる。

不審者が丁寧に指にテープを巻いていくのを、息をつめながら見ていることしかできなかった。思ったより、というのかは分からないが、不審者はそれらしくない手際の良さでくるくると器用にオレの指を包んでいく。まるでやり慣れているかのような。だがこいつの指には、テーピングをしていたような形跡はない。


「はい、できた。どう?」

「…まあ、悪くは、ないのだよ」

「そっか。サンキュ」


不審者はなぜか嬉しそうに笑って、きれいな指だなともう一度だけオレの指に触れた。


「…オマエも」

「うん?」

「オマエも、プレイヤーなのか」

「んー…まあ、そだね。ポイントガード」

「ほう」


離された手が少し名残惜しいと思ったのはなぜだろう。「興味出た?」目を細める不審者に「調子にのるな」と返せば、その笑みが更に深くなる。心が少しだけとくりと鳴いた。余ったテープを巻き取る姿を、オレはどこかで見たことがあるのだろうか。

不意に部室のドアがこつりと叩かれて、その向こうから緑間くん集合ですよと黒子の声がした。はっとして顔をあげる。今度は不審者が名残惜しそうな表情をして、時間だな、と呟いた。


「んじゃもう帰るわ。部活ガンバレ」

「なっ、…たかお、」

「うん。じゃあ」


窓際に足をかけて(やはりそこから帰るのか)、こちらを向いてオレを手招きする。それを拒否する理由がないように思えて、オレは一歩、そいつに近寄った。
頬に触れた手のひらは、思ったよりも温かかった。


「またな。真ちゃん」




風が吹き抜けた後の部室で、黒子がオレを呼ぶ不思議そうな声だけが残された。





この声が世界のしるべ
(未来で会おうぜ、オヒメサマ)
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -