※大学生だけど同居してない時期
※色々捏造





ちょうどお互いに授業がなくなった日の朝、バイクもらったんだけど見に来るか、とメールをしたら「乗りたいから迎え来て!」とやけにテンションの高いメールが返ってきた。誰が二人乗りだっつったよと内心ツッコミを入れたが、実際否定出来ないので黙ったままにしておいた。
覚えたての名前と車体、荷台にヘルメットをひとつ下げて、少し距離のあるあいつの家へと走り出す。とはいっても、バイクに乗ればそうかかる距離ではなかった。電車をいくつか乗り継いで、そういえばいつも会いに来るのはあいつの方からだったと思って、高校生のときはあんなに遠く感じたのにな、と流れる景色が少し懐かしかった。







同じ都内にある黄瀬の家に着くと、音を聞きつけたか中からちょっと行ってくる、と聞き慣れた声がした。ドアが開けられるのを待つこと数秒、ティーン向けのファッション雑誌からそのまま抜け出てきたかのような流行に身を包んだ男が嬉しそうに飛び出してくる。


「うっわ、でけー!」

「初っ端からそれか! つかお前、んな分かりやすい格好で大丈夫かよ」

「あ、はよっス火神っち。後ろ乗せてくれるんでしょ? なら平気っスよ、他人って案外自分のこととか見てないから」

「…お前なあ」


どうにでもなりやがれと投げやりな嘆息、一緒にはよ、と返してやれば黄瀬はまた嬉しそうにうん、と笑う。
その表情がひどく幼く見えて、思わずヘルメットを被せるついでに唇を合わせてしまった。黄瀬がうわ、と思いきり上ずった声で驚嘆する。


「あ、あ、あんたなにやってんすか!」

「…わり。つい」

「つ、ついっておまっ、」

「乗れよ、涼太。あとデカイ声出すな」


黙らせるための切り札を出せば、黄瀬ははくはくと口を開いたり閉じたりを繰り返して、結局しねと悪態をついてうつむいた。…お前、今からデートに行こうって相手にそれはねぇんじゃねぇの。

いつも通りの「火神の癖に!」を右から左に聞き流しながら、大型バイクの後ろに黄瀬が乗り込むのを支えてやった。
名バスケプレイヤーであり人気モデルであり、その前にはオレの恋人でもあるこいつを後ろに乗せるのに少し抵抗はあったけれど、町内を安全運転で回るくらいは構わないかと脳内でルートを検索する。「ねえ火神っち、オレ湘南の海に行きたい」…なんでお前はそうやっていつもオレの予定を破壊しようとするんだ。


「お前、何かってーとすぐ海だよな」

「だって海好きなんスもん。だから海常行ったんだし」

「は。本気かよ」

「ほんのちょっぴりね」


同じく乗り込んだオレの背中にぴったりくっついたのを確認してから、スタンドを外してエンジンをかけた。黄瀬との会話でよく分からないことがあるのは今に始まったことじゃない。ふうんと形式だけの相槌をうって、ふかしたアクセルを思いきり踏み込んで走り出す。風が柔らかい。


「そいえばこれ、誰からもらったんスか?」

「タツヤが使ってたヤツ。新しいの買ったからオレにやるって」

「タツヤ…ああ、氷室サン」


後でお礼いっとかなきゃ、機嫌のいい声が歌うように呟いて、バイクは緩やかに街中へと滑りだしていった。




with my dear.
(くっつくのに理由がいらないっていいっスね!)
(お前はくっつきすぎだけどな)
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