今日は部で係があるからと先に学校に行っていたら、少し後に来た真ちゃんがなんだかガッツリとへこんでいた。
いつものはよっスに返事はなく、部室にひっこんでからは何か思い詰めたかのように頻りに額に手をあてている。普段から仏頂面ではある真ちゃんだが、さすがにここまでの落ち込みは珍しい。

真ちゃんの機嫌に占いを思い出すのはもう常識だけれど、ヤツはそれだってラッキーアイテムがあれば補正されると無理矢理にでもポジティブを貫く男だ。触らぬ神になんとやら、不機嫌な真ちゃんに以下同文。
あんまり引きずるようなら後でフォローいれっかと掃除で汗が染みたシャツを着替えていた。

――ら、捕まった。
何にって、そりゃあ。


「オイ高尾ー」

「…なんスか宮地サーン…」

「緑間がマジウザイんだけどさー轢いていい? ていうか轢くな? お前もろとも」

「スマセンどっちもやめてクダサイ!!」


後ろから襟首をがっちり掴まれたままでの脅迫だ。油断してたとはいえ唐突に現れた秀徳の破壊神に、オレはどうにか許しを乞う。
宮地サン、とりあえずそのマジな目をやめてくれませんか。

ちっという舌打ちに加えてなんとか許しはもらえたものの(あとついでに拳固ももらった)、部活が始まるまでにどうにかしとけお前の相方だろ、という捨て台詞のような命まで下ってしまった。冗談ではなく怒った宮地サンはさすがのオレでも怖い。
でもひとつ訂正、真ちゃんはオレの相方ではなく恋人だ。そこんとこ重要。



誰もいなくなった部室、そのシチュエーションに無理矢理テンションを上げるもののやはり気が進まない。そのままのそのそと真ちゃんの側により、ベンチに座る真ちゃんの足元すぐ横にぺたりと座った。

宮地サンに絡まれているときですらこちらを見なかったその視線は、こんなに側に来てもオレに向くことはない。ここにオレなんかいないみたい。いつもみたいにオレを見て、何の用だっていえばいいのに。


「真太郎」


ベンチの縁に手を添えて、誰かいたって真ちゃんにしか聞こえないだろう声量で囁いた。ぴくりと動いた手のひらの隙間から見えたのは少し驚いた瞳、きっと部活中なのに名前を呼んだオレに驚いてる。真ちゃんは単純だ。


「どうした」

「…何が」

「朝から元気ねぇだろ。心配してるだけじゃどうにもなんねぇみたいだから」


だからここまで来たよ、と手を伸ばして額に触れた。
真ちゃんは少しだけ不快そうに目を細めたきり、何もいわずに目を閉じた。寄り添って来ない代わりに拒否もしない。近くまで来てみたら、元気がないというよりはやはり自らの失態にダメージを受けているような、そんな印象をありありと感じた。何したんだよと無言のうちに問う。後は真ちゃんが話してくれるのを待てばいい。出来れば、大坪サンが来る前にいってくれたらいいんだけど。まあそこはオレがシめられればいーから問題ないか。

時折髪を撫でながらそうしていたら、真ちゃんが観念したようにはあ、と息をついた。


「…学校の…通学路に、上水があるだろう」

「あ、うん。橋かかってっとこ」

「…そこに落としたのだよ」

「おん? 何を」

「………ラッキーアイテム…」


どんより。背負った影がまた重たくなる。落とした。しかも上水に。そりゃ吃驚だ。

焼き物が割れたとか壊されたとかでラッキーアイテムが損なわれることは時たまあったが、川に流されるというのは初耳だった。確かに手のひらに乗せたままとかリアカーに直置きとか、真ちゃんのラッキーアイテムに対する扱いは割とてきとーだから、もしかしたらポケットから転がり落ちたとかしたのかもしれない。重力は時に無情だ。

でも真ちゃん…それは落ち込むよ。ドンマイで片付かないのが真ちゃんとラッキーアイテムの絆だもんな。分かるよ。


「…よしよし」

「…やめろ。同情はいらん」

「いーでない、たまには素直に受け取っとけよ。で、何落としたの」


真ちゃんの頭をよしよししながら、ひとまずそこを解決してやんねぇとと聞いてみる。人形とかびっくり箱とか訳分かんねぇもんならもんならともかく、一般的なものならオレが持ってるかもしれない。そうでなくとも代替品くらいは調達できるかもしんないし。
見上げた緑は細められ、そのまま窓の外へと向けられる。


「…髪飾りだが」


もうどうでもいいみたいな口調。あれだけ落ち込んでたくせに。オレの前でくらい意地はんなきゃいーのに、ふうんと何気なく聞きながら笑ってしまいそうなのを我慢した。

それより髪飾りだ。
髪飾りねぇ、これまた微妙な。


「あ」

「何だ」

「ちょっち待って。今日も多分」


動きたくなかったので行儀悪く足で鞄を引き寄せた。普段は横着するなと小言をくれる真ちゃんは、今日は瞬きをしただけだった。しょうがねぇやつ。
愛用の鞄に手をつっこんで、余り整然とはいい難い中身をがさごそ探す。確かこの辺と内ポケットを探ったら、お目当てのものが手に当たった。引っ張り出して頭を通す。
にひひ、笑いながら真ちゃんを見返して。


「これでどーよ」


引っ張り出したのは、暑いときによく使ってるヘアバンドだった。一色一ラインのシンプルなやつだけど、これだって立派な髪飾りだ。
ふふんと得意気になったオレを見て、ぱちくりしてた真ちゃんは一変不機嫌そうに眉をひそめた。それだってきっと、色んなものをカバーするための。つつけばつつくほど殻にこもる、ほんとに面倒なやつ。


「…それを飾りというのはどうだ」

「うわかわいくねぇ」

「うるさい。しかもオマエが着けてどうするのだよ」

「バッカだなー真ちゃん。これはさ、」


なんかもう色々が面倒になったので、羽織ったジャージの襟首をひっつかんで揺れる瞳を見つめながらキスしてやった。びっくりの直後に多分二三罵倒されるだろうけど、こっちの方が分かりやすいだろ。


「今日一日、オレがお前のラッキーアイテムってこと」




強がる瞳に最高の微
(これならラッキーでハッピーだろ?)



*「運命的幸福論」様 提出作品*


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