正座のまま真ちゃんを見ているオレと、ゆったりと読書にふける真ちゃん。


何か、その、これ…おかしく、ね?












事の始まりは唐突だった。

真ちゃんをオレの家に呼び、他愛ない会話がふと途切れた時。真ちゃんが不意に思いついたようにオレを呼んだ。高尾。
真ちゃんに上手にしつけられているのが半分、あと半分は惚れた弱味から、とりあえず理由は分からずともその手に従って側まで近寄った。そこに座れとばかりに床を叩かれたので、その場所によいしょと正座をする。正座に特に意味はないが、女王様の機嫌の動きはよくわからないので。オレって健気。


オレが座って真ちゃんを見返したら、そちらも少し身動ぎをして正座になっていた。休日、部屋の隅、向かい合うやたらタッパのある男ふたり。異様すぎる。…これから何が始まんだ。

何かじっとりと冷や汗をかいてきたような雰囲気を纏いながら、こほん、彼にしては珍しい芝居がかった仕草から目を離せないでいた。


「…真ちゃん?」

「高尾」

「あ、ハイ」

「待て」

「………ハイ?」


呼ばわりも唐突なら命が下されたのも唐突だった。瞬きを繰り返すオレを置いてきぼりのまま、女王様改め真ちゃんは満足げによし、と呟いておもむろに本棚から本を取り上げた。ああそれ、オレが読み終わったら貸すっていってたやつ。正直しおりの位置は前の方過ぎるが、まあこいつならそれをいじったりはしないだろう。うん大丈夫。


じゃねーよ。


「みど」

「高尾。待てだ」


理不尽な一言に続く無言の圧力。
文句や疑問は多々あれど、オレ何かしたのかな…と遠い目をするくらいしかオレに許されたことはなかった。









――…そして冒頭に戻る。

それから30分ほどが経過した。その間に女王様は順調に本を読み進め、オレはというと微動だにせずその場所に座っている。ちょっと足がしびれてきた。でも動くことは許されない、そんな空気だ。


そもそも定義上、『待て』というのはご褒美を前にして自らを律しつつ主に従う、そういうものだと思っていた。後半はともかく前半はなんだ。こいつは自分がゴホービだって思ってるわけか。時おり眼鏡を指であげながらページをめくるその指が長くてやや細めでやっぱり綺麗、ていうか今日もまつげ長いな髪も綺麗だしかわいいし押し倒してキスしたい真ちゃんダイスキ。

…ちくしょうよく分かってんじゃねえか。


普段は操作される気満々で自分からはいはいと従っているオレだけれど、どうもこうやってほっとかれるのは性に合わないらしい。ここにいる意味が分からないのもつらい。


なんだかなあ、と自分自身にため息をつきながら、それ以外に選択肢はないので(というよりはやや自主的に)本を読む真ちゃんをじっくり観察することにした。


家に呼んだのは部活が終わってすぐのこと、当然服装は制服のままだ。とはいえ室内、かつオレの家ということで真ちゃんは珍しく学ランのボタンを外している。普段は過ぎるほどにストイックに見えるそれが緩み、外でと比べ勘違いではなくとてもリラックスしているようだ。こんな状況でなければかなり頬の緩む現状である。ちょっとうつむいたのに意味はない。別に緩んでない。


ここでひとつ思い出したのは、『待て』に伴う主の手のひらと強い目線。その両方共が今のオレにはないわけだが、それでも動けないオレってどうなんだ。あまり健全な思考ではないと呟くオレが一割弱、真ちゃんからのアプローチを無駄に出来ねぇと意気込むオレが八割ちょい。あとの一割は冷静なオレ、要するにオレは、ただのバカだ。高一にして恋に溺れきっている。


真ちゃんからなんのアプローチもないということは、多分現状は真ちゃんが満足するまで変わらないだろう。そんなのだって悪くないと先程の八割ちょいがまた囁くが、凡そオレには異論がない。明日は土曜で部活は昼から、貴重な時間の使い方に問題もない。


真ちゃんの気まぐれがなんだ。奴隷状態に何の問題がある。オレは好んでここにいて、真ちゃんはそれを拒まない。
もうどうにだってなれ、こんな愛があったっていいはずだ。

側にいられる幸せとかを噛みしめたり、それだけで。





…でもひとまず正座は崩してもいいか、もう少ししたら聞いてみよう。






気まぐれユート
(リーズンレスな主従関係)
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