「火神っち来てるのー!?」


どたどたどたごっ、ばたん!

鍵を開けた時とは裏腹な響き渡るほどの騒音に、オレは眉をひそめて舌打ちする。「い、いててて」聞こえた情けない声にため息もプラス。読んでいた英字新聞を床にたたきつけて、出来る限りゆっくりと立ち上がった。嫌々ながらドアを開ける。――がちゃり。


「あ、かがみっち!」

「…黄瀬…お前な、」


どう転んだのか想像もしたくないようなほぼ逆立ち状態で壁にはりつく黄瀬、が、予想通りそこにいた。「いらっしゃいっス」にへらと笑う。


「どうしているんスか、今日は来ないっていってたのに」

「お前に言わなきゃ来ちゃいけねえの?」

「全然!!オレ嬉しい」


今日は火神っちに会えるなんて思ってなかったから!そのままの状態で起きあがる気配のない黄瀬を放置して、くるりとターンして部屋に戻る。ドアを閉めて鍵をかければ、オレだけの密室のできあがりだ。


「あれ、火神っち!?ドア開かないんスけど!!」

「そりゃ開かねーだろ、鍵しめたから」

「オレの部屋なのに!?」

「お前うっせえ」

「火神っちぃいいいいい」


部屋の持ち主がずるずるとドアをすべり落ちる音がして、立っているオレからはかなり下方に感じるその場所でぐすぐすと鼻をすする気配がした。ほんとめんどくせえ奴。

かちん、スチール製の鍵を指で弾き開ける。ぴくり、揺らいだ気配がどうするのかなんてことを確認するまでもなく、とびつくみたいにしてドアノブをつかんだばかな犬が、これ以上ないってくらい幸せそうにとびこんでくる。


「火神っちだいすきー!!」

「あ゛ーはいはい。開けなきゃよかったな」

「そういう冷たいところも好きっスよ!!」

「そりゃどうも」


背中にべったりはりつく(オレと同じくらいの身長の)黄瀬を見返ることもしない。鞄くらい置けばいいのにこいつはばかだなあと思ったくらいで、そのまま黄瀬が毎日綺麗に使っているベッドに振り落とす。「うげっ」…色気のねえ声。


「火神っち」

「…あんだよ」

「オレ、火神っちといると、すっごくふわふわしてね、」

「ふわふわ?」

「オレ今しあわせだなあって、いっつも思うんスよ」


普段はイケメンの(はずの)こいつは、こういうときばかり甘えた顔でほわっとわらう。それがやっぱり可愛いと思って、でも口にするとこいつはまた調子にのるんだろうなあと思いながら、お互いの想いが声になってあふれる前にお互いを引き寄せてふたをした。








満腹な腹感
(火神っち、後で一緒にバスケして)
(別にいいけど)
(そしたらマジバで夕御飯っスね!)
(…ファミレスにしとけ)

TITLE:宇宙の端っこで君に捧ぐ
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