カタン、と車輪が軽い音をたてた。

時季の話題も涼しくなってきたと変化をしつつある中、晴天の今日は厳しい残暑が少しだけ名残りを刻んでいったところだった。
じわりと汗ばむ腕にはりつくシャツはやや不快にあったけれど、先程からふきつける秋風にそれもあまり気にならない。茜色の空は静かに暮れなずんでいく。


「真ちゃーん」

「なんだ」

「自販あるけどなんか買ってく?」

「いらん」

「はいよ。じゃあコンビニな」


高尾がぐいっとペダルを踏み込む。酷い揺れもなくスピードをあげたリアカーは、補整されたコンクリートの上を緩やかに進んでいく。風が心地いい。
見慣れた景色、ふと寂しげに見えた自動販売機に目を閉じた。瞼の裏にも紅がのびる。どこかの豆腐屋のラッパに混じって、細く歌が聞こえた。


「…高尾か」

「ん? どーした真ちゃん」

「奇怪な音を生むな。公害だ」

「えっひどっ」


全く真ちゃんはぁ、拗ねたように呟いてから、今度はこちらにも聞こえやすい音量でまた歌いだす。聞いたことのない歌だった。流行りを追うのが上手い男だから、テレビででも流れた歌だろうか。おは朝の占いとニュースだけでは分からない世界。


「えー、それでは続いて二曲目です」

「…なんのナレーションなのだよ」

「高尾和成による、真ちゃんに捧ぐ愛の歌」

「黙れ」


がつんと荷台を蹴飛ばす。返される言葉はなく、代わりに楽しそうな歌が聞こえた。
その背中をひとつ睨んでから、遠ざかっていく空に視線をうつした。先程見えた空は未だそこにある。カラスが横切ると、その翼に合わせてゆらゆらと姿を変えた。
黒い学ランをも染める夕陽。不意に思って、鞄の中から携帯を取り出した。使い慣れないそれをなんとかいじってカメラモードに切り替える。手のひらサイズの画面に収まって尚、夕陽はそこに刻々とグラデーションを描いていた。


(…綺麗だな)


ピロリン、ちいさな機器が了解の合図をたてる。
真ちゃんなんの音、と不思議そうな声をあげた高尾に少しだけ笑いながら、淡く紅を写した携帯をぱちりと閉じた。





交わる
(真ちゃんこれ撮ってたんだー)
(勝手に見るな)
(うわ、めっちゃ綺麗だね)
(…そうだな)
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -