馬鹿馬鹿しいと一蹴してしまうような、そんな出会いだった。
入りたてのバスケ部で一通り自己紹介を終えた後、カントクが今日の夕飯の献立はこれだから、みたいな軽いノリでひとりの男を紹介した。ざわめく部員達。オレだって知ってる、同年のすごいプレイヤー。キセキの世代。
「…緑間真太郎です」軽く頭を下げたきり、ため息混じりに黙り込んだ姿がなぜだかとても印象的だった。



なーんてこともあったよなあ、と自主練に励む真ちゃんを見ながらぼんやりと思った。ハーフラインから黙々とシュートを放ち、その全てをリングに通しながらも悩ましげにシャツで首元の汗を拭う。
クールダウンのついでに散乱するボールを集めていたら、最後のボールを投げっぱなしたままでベンチに向かう真ちゃんが見えた。てろてろと戻ってベンチにたたんでおいたタオルを投げてやる。
それを片手で受け取ると同時くらいに、じりじりと燃えるようなオーラを放っていたのがふわりと緩んだ。オレもなんだかほっとする。


「お疲れサン」

「…ああ。お前もな」

「やー、オレはいいっスよ。いつも通り」

「尽くす人事に上下などないのだよ」


あ、今オレ褒められた。
バスケをする前後の真ちゃんはあまり笑うことがない、けど、だからこそ無表情での賞賛が嬉しい。オレだって男の子だ。好きなスポーツが出来れば嬉しい、上達すれば嬉しい、褒められれば嬉しい。それが好きな子相手なら尚更。

真ちゃんはタオルで首から上を適当に拭いて、横ちょに置いてあったスポーツ飲料入りのボトルをぐいっとあおる。うーん男らしい。上下する喉元にグッとくる! といわれてもオレはどうもピンとこないタイプなのだが、むしろ上向いた瞬間にこぼれる髪の方がぞくりときた。あと飲み終わった後にメガネを直す指先に。これは多分、真ちゃんをスキになってしまったがための症状だろう。


「まだ帰らないのか?」

「うん? 帰るけど」

「…そうか。気をつけて帰るのだよ」

「おん?」


タオルとぺたりと置いて踵を返した真ちゃんに、首をかしげることで返事をする。したところで真ちゃんの視界には入っていないのだから無意味だったのだけれど、ボールを拾い上げて手のひらでこする仕草を見たらどうでもよくなった。もう少しやって行きたい、のサイン。
最後くらいは頭真っ白にして集中したいだろうと思って、タオルをもう一回たたんで立ち上がった。
ボールをついていた真ちゃんがオレを見る。なんだか寂しそうな顔。
…ああ、さっきのってそういう意味。

ひらり、手を振って。


「門のとこ、リアカー回しとくから」


ぱちりと瞬きをしたきれいな目が淡く染まるのを見てから、鼻唄混じりに部室に向かう。かすかに聞こえたのは馬鹿がっていういつもの文句、また嬉しくなってつい笑ってしまう。


残念ながらオレのリアカーのブレーキランプは光らないけど、それでも届くアイシテルは、ほら、そこら中に転がってる。



色とりどりのラソング
(早く気づけよ、ばか真ちゃん)
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