真ちゃんはきれいだな、と思った。

部室のベンチに座ってテーピングをしているのをすぐ横に座ってじっと見つめる。当初はうっとうしいとか早く帰れとか言われていたものだけれど、今では真ちゃんもオレを空気のように扱っている。全く気にならない、というわけではなく、その辺の備品や家具なんかと同等の扱いなんだとか。


「真ちゃん」

「なんだ」

「なんでもなーい」

「…用がないなら呼ぶな」


寄越していた視線をまた下げる。メガネをしていても手元はよく見えるんだろう、特に目を細めたりすることもなく黙々とテープを巻いている。ていうか真ちゃんて近視? 遠視? そういうのも聞いたことなかったな。どっちでもいいけど。


「真ちゃん」

「………」

「しーんちゃーん」

「な、ん、だ」

「なんでもない」

「いい加減黙らせるか?」

「わぉ、暴力反対」

「…なら黙って大人しくしているのだよ」


視力に関係なく目を細めた真ちゃん。一度瞬きして、それからオレの頭をちょっとだけぽん、と叩いてまた作業に戻っていった。なんか今オレあやされた? …確かにちょっと、ガキっぽいとは思ったけどさ。

言われたとおりに大人しく、さらりとこぼれる真ちゃんの前髪を見つめていた。真剣そのものじゃない目で何かをする真ちゃんは珍しい。真ちゃんはいつでも真面目だ。あ、だから真ちゃんなのか? 読書も勉強も人間関係もそれなりに適当にやってしまうオレとは大違い。さすがにバスケを適当にやれるほどではないけれど。

そんなことをつらつらと考える。部活が終わった疲労感の残る頭には、こののんびりとした時間がとても居心地が良かった。緑がかった髪は光にあたると白く輪を作って、そう丁寧に手入れをしているわけでもないだろうにと感心する。ふっと指先に息を吹き付ける、その動作だけで胸がいっぱいになった。真ちゃん。ねえ真ちゃん。


「…真ちゃん」

「なんだ」

「好きだよ」


黙れっていっても、うるさいっていっても、邪険にしてても、それでもちゃんとオレを見てくれる真ちゃんが。オレが呼んだらこっちを見てくれる真ちゃんが。

真ちゃんはいきなり変な告白を始めたオレをぱちくりと見て、少しだけ考えるようにして視線を泳がせた。天井辺りを見ていた視線が、ゆっくりともう一度オレをうつす。ぽん、と置かれた手は、先ほどよりもつよく、あたたかくて。


「…知っているのだよ」


しょうがないなって顔で笑う真ちゃんは、やっぱり胸が痛くなるほどきれいだった。




名前ときと、それから。
(なんどでも呼ぶから、なんどでも振り向いて)
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