「例え話なんてきらいだよ」
ふわふわと浮いていたところを捕らえられ、そのまま彼の頭に乗せられた。金糸に佇む王冠を指先でいじりながら、ボクはまたぽつりと呟いた。ここは嫌いじゃないけれど。
「なんで」
「うるさい。キミには関係ない」
「マモに関係あってオレに関係ないことなんかあると思ってんの?」
「…そういう思い上がりに時々すごく腹がたつよ」
ぴゅう、口笛が響く。雨があがったばかりの空はまだぐずついていて、今にもぽとりとなきだしそうだ。ぽとり。ほたり。はらり。
「術士ってみーんなくっだんねーこと考えてるよな」
「…キミが何も考えてないだけだろ」
「意味ねぇこと考えたって、相手に刃が刺さるわけでもねぇのに」
袖口からお得意のナイフを取り出してくるくると回す。生温い風がふわり、過ぎていった。彼がぽつり。マモは、と囁くように。
「なににそんなビビってんの」
「…今は関係ない」
「なにが怖いわけ?」
「黙りなよ。ベルフェゴール」
「しし、…やっと呼んだ」
いたずらっ子みたいに笑う。頭の上はそれなりにバランスがとりにくい。ゆらゆらと揺れる。戻る。揺れる。
「…なあマモ、」
「……なに」
「もしマモがいなくなりたくなったらさ」
「…うん」
「王子も一緒に連れてけよ。姫の隣に」
金糸を握る。少しだけ下をうかがってみたけれど、彼の表情は見えなかった。今ほど彼の前髪を憎いと思ったことはない。ゆらり、…ゆらり。立ち止まった彼は念を押すように、神妙な声で「いいだろ?」と吐き捨てるみたいにいった。
ボクはただ、うん、そう、と呟く代わりに頷いた。
「…考えとくよ」
そんな馬鹿みたいな例え話を、いつかキミがくだらねぇと笑いとばしてくれることを願いながら。
境目はありません
(そんなの、嘘だって知ってたよ。)