ピルル、ピルル
「綱吉?」
「なんだ、よっ!」
「電話鳴ってますよ」
「オレいま取り込み中だからお前とって!!」
コントローラーを動かしながらゲームに夢中な綱吉に、雲雀くんだったらどうするつもりだと悪態をつきながら携帯をとりあげた。ぱかりと開けると、そこには非通知の三文字が並んでいる。
「非通知です」
「ひつーち? あ、んじゃディーノさんかも」
「…ああ」
動揺が手に伝わったのを、綱吉は画面を見ながらでも気づいたらしい。とれば?なんて憎らしいほど優しい声、思わず携帯を破壊してやろうかと思った。
――…一度深呼吸して、ぷち、と通話ボタンを押した。
「もしもし、」
『あ、ツナ? オレ』
「どこの俺様ですか」
『骸!?』
大音量に顔をしかめて携帯を耳から遠ざける。綱吉が楽しそうににやにやしながらこっちを見ているのが気にくわない。平たくいえばムカつく。
「名前くらいきちんと名乗ったらどうです」
『あ、はいえーと、ディーノです』
「よろしい」
くすりと笑って、右から左に携帯を持ち変える。
『ツナにさ、骸どうしてるか聞こうと思ったんだ』
「わざわざ聞かなくてもいつも通りですよ」
『うん、まあ確認かな。今ツナんちにいんのか?』
「ええ。これから綱吉の徹夜に付き合わされる予定です」
勝手に寝ればいいだろ!と背後から聞こえた声には無視を通す。かちゃりと耳元でキーホルダーがないた。
『へえ、じゃあ奇遇だな』
「は?どういう意味…、!」
横向きに寄りかかっていた壁を右手で叩いて起き上がり、びっくりしたように僕を見た綱吉に構わず窓に駆けよってカーテンを開けた。深夜に近い時分、――暗闇にも鮮やかな。
『よ、久しぶり』
「ディーノ…!? どうして、」
『こっちに用があったから、無理いって並盛にも寄らせてもらった。昼前の便であっちに帰るよ』
「そん、…あ、ちょっと待ってください」
咄嗟に鍵を開けかけて、今日はここにいさせてくださいと頼み込んだ相手を振り返った。綱吉は僕を見て、いつもとは違う、柔らかい表情で笑って。
「行けよ」
「でも、」
「ディーノさんなんだろ? すぐ帰っちゃうんだから、一瞬だって無駄にするな」
「…綱吉」
早く行けよ、後押しのような一言に、頷くことで想いをこらえた。携帯はその場に残したまま窓の鍵を外して窓を開け放って、すぐ横に置いておいた靴を指先にひっかけて屋根を駆け降りる。僕を見上げる金色へ、一本の道を外れることなくとびこんだ。
「骸、…逢いたかったぜ、ずっと」
「…僕も貴方にあいたかった」
「へへ。ただいま」
ぎゅうっと抱きこまれて、震える手でディーノのシャツを握りこんで。
「…お帰りなさい」
最上の瞬間を、最上の貴方と。