ブーン、と枕元の小机で携帯が静かに震動した。10分以上も前からそれを見ていたことを悟られぬよう、4回目の震動の途中まで待って通話ボタンを押す。


「…はい」

『おはよ、骸』

「おはようございます、ディーノ」


綻んでしまう頬に手をあてて、高鳴る胸を押さえつける。


『まだ寝てた?』

「いえ。カーテンを開けに行っていたところです」

『はは、そっか』


いつもより取るのが遅かったから、聞こえた言葉に少しだけつまる。朝お決まりの電話を楽しみにしているだなんて知られたくないはずなのに、かかってくるとつい反射ですぐ取ってしまうのだ。自分の不器用さが心底憎い。


『今日は何すんの』

「今日は一日、綱吉くんの護衛です。午前中は市街の巡回と書類整理で、昼過ぎからは慈善事業の催しに」

『…それってパーティかなんか?』

「そうですが。なにか?」


分かりきっている答えを意地悪に待つ。コンコン、声のないときに聞こえるのは、彼が机をペンで叩く音だ。間隔が短い、拗ねた音。


『変な男にひっかかんなよ』

「…そういうときは女性に、じゃないんですか」

『女は拒否できるだろ、お前』

「男性でもできますよ、失礼な」


ファミリーのためのパーティ以外に出席すると告げる度、こうして彼に心配された。疑っているわけじゃなくて心配なだけなんだという彼に、…僕の心をそのまま伝えられたらいいのにといつも思う。


「心配なら見張りにでも来たらいかがです?」

『え、いいのか』

「…冗談のつもりだったんですが」


途端にばたばたと何かし始めたディーノに不審な空気を感じとり、僕は少しだけ眉をひそめる。


『パーティ、何時までだ』

「ええと、確か17時までだったと思います」

『ん、じゃあ15時にはそっち行く。場所は?』


南イタリアに本部を構えるファミリーの名前を告げれば、分かったと上機嫌な声がそう返す。突然決まった逢瀬にあきれたとばかりにため息をついて。


「そんな独断で決めていいんですか? 貴方ボスでしょうに」

『ボスだからいいんだよ。…骸は嬉しくない?』

「…嬉しくないわけ、ないでしょう」

『俺も嬉しい』


久しぶりだ、そういうディーノにそうですね、とだけ呟いた。耳元で聞くのは毎日なのに、それでも本当の貴方が欲しくなるなんてわがままはいえない。自分のためにと言いながら、それは僕のためなんだと知っているから。


「明日も早いですから」

『…無理させんなって?』

「早く来てくださいといったんです、このばかうま」

『いきなりひでえな!』


からからと笑う。耳に心地いい。たった一時、こうして話すだけでも幸せなのに。今日は逢える。あの金色に。


「はやく、きてくださいね?」

『ん。終わったらすぐ行くよ』

「待ってますから」

『おう』


また明日、がまた後で、に代わって、愛してると言い残して切れた通話に、心がほんのりとあたたかかった。


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