「じゃあ、行ってくるな」
「…ええ」
ジャケットのボタンを止めながら振り返った金色に、僕は淡々とした声でそういった。
「…またすぐ会えるよ」
「気休めはいりません」
「なら、約束」
枕にのせていた頭を少し持ち上げる。差し出された小指の意味が分からずにそれをぼうっと見つめていたら、ディーノが少しだけ困ったように笑っていった。
「ゆびきりしようぜ、骸」
「…なんですかそれ」
「ツナに聞いたんだ、約束のときにはこうすんだって。ほら、小指」
無理矢理出された左手、その小指にディーノの小指がそっと結ばれる。じんじんといたいほどのぬくもりだった。きゅ、と絡ませた指を揺らしながら、彼が静かに歌を口ずさんだ。
「ゆーびきりげーんまん、うそついたらー…どうする?」
「…槍で刺します」
「はは、こえーの」
ゆびきーった!一連の儀式(の、ようなもの)を終えて、今度は指だけじゃなくて手のひら全部で手を捕らわれた。握られている間だけは震えないように、穏やかに笑う貴方を罵ってしまわないように、必死で無表情を貫いて。
「これで大丈夫、な!」
「…お気楽なひと」
「だってオレ、骸のことすっげえ好きなんだもん」
「は」
寝転がる僕にのしかかるみたいにして髪にキスを落とす。今日だけはと許した彼の証が散らばる首元にも、名残惜しげに触れる唇がいたかった。
「骸が笑えるためならなんでもする」
「…軽々しくなんでもなんていわないでください」
「だから、…なくなよ」
「ないてません」
枕の下に両手をつっこんで、彼に見えないように小指を握りしめた。こんな、どちらかを嘘つきにするためだけの薄っぺらな言葉なんかいらないといってしまいたかった。普段なら笑えたのに。今はこれが唯一の光だなんて。
「愛してるよ、骸」
耳にすら刻まれる彼の跡に、胸が軋むほど切なかった。