やかましいくらいに響くドラムの音に僕は耳を傾けた。合間に流れるメロディや歌声に意識をとられないよう、低く胸を打つ音を耳で拾う。
「骸?」
「なんですかー」
「すっげぇ音してるけどどうしたー?」
防音扉のすぐ向こうで聞こえた声に、ほんの少しだけ音を下げてそう返す。入室を問うノックに是をいえば、湯気をあげるカップをふたつ持ったディーノがそろそろと入ってきた。
「紅茶淹れたんだけど、飲むか」
「いただきます」
膝を抱えていた手を離してカップを受けとる。温かいそれは、隣に座ったお日様のような甘い匂いがした。
「…これ、なんて歌?」
「知りません。ジャッポーネでは有名らしいですが」
「ふーん」
カップに口をつけながら寄りかかる。癖で腰に回された腕に、今日だけは甘えてみた。
手を伸ばして、落ちていたリモコンを操作して音を止めた。ディーノは突如訪れた静寂に文句も疑問もいわず、時折僕の髪を撫でながら静かに紅茶を口にしている。
「…さっきの歌」
「ん?」
「ドラムの音が、貴方の心臓の音に似てるんです」
耳をすますとすぐ耳元で静かに刻まれるリズムがある。さっきみたいに包まれるような音とは違う、ここにしか存在しない心地のいい音。
「へえ、」
「それで、貴方の代わりにしようかと思って」
「うっそ」
「嘘です」
くはは、一瞬ばかみたいに固まった体に笑ってやる。拗ねたみたいに傾けられた金色が頬にあたってくすぐったい。
「…貴方の代わりになるものがたくさんあればいいのに」
「…そんなんどうすんの」
「そうしたら、貴方がいなくてもさみしくないのに」
耳元の音が、動揺したように跳ねたのがおかしくてたまらなかった。