由里が泣いていた。

先ほど投げ渡したティッシュの箱はすでに空になったらしく、今はそのすぐ横にあったタオルでぐしゅぐしゅと鼻やら目元やらを拭っている。そのタオルがわたしのご贔屓のバンドグッズであり、わたしがかなり大事に使っていることなどお構いなしだ。でも多分由里は、そのことを知っている。

「…なんで泣くん」
「…奏が泣かないから」
「代わりにないとるの? へえ、自分に酔ってるんか」
「そうじゃないよ」

強気、仏頂面、そんなお綺麗な単語で表せるようなわたしではない。ほとんど非難に近く由里を罵倒し、由里が泣き止むよう慰めもしない。わたしはバカだ。そんなこと知ってる。ただ由里が、くだらない理由で泣くのが嫌だった。

「別に、お水でもキャバでも、行ったらええ」
「…なんでそういうこというの」
「わたしじゃ構えきれん。だから違う方法で、っていうのは普通と違うか?」
「違うよ。ゼッタイ違う」
「どこが。ゆうてみ」
「彼女がいるのに、他の女の人なんてダメなんだよ」
「…わたしが気にせんいうとる。アンタが泣く理由にはならん」

わたしの彼氏、といっても気が向くときにしか会わないし、会っても共通するような話題もない。『別れよう』の一言がないという理由だけで惰性でつきあっているような男であるが、そいつがわたしに隠れてキャバクラへ行ったらしい。
それを人づてで聞き、目的にも理由にも興味のなかったわたしは一言「へえ」といって終了させた。奏はさばさばしてるなあと苦笑気味にいわれる意味も分からないままだったが、由里にそれをこぼしたのは間違いだったと今なら断言できる。

「…彼氏っていっても、もう好きかどうかも分からんよ。だから気にせん」
「それでもだよ。ダメなんだよ」
「…由里」

由里は傷つきやすい。それでいて一途だ。わたしに彼氏が出来たとき、一番喜んでくれたのは由里だった。わたしは由里が、大事だった。だから別れられなかったのかもしれないと漠然と思った。
わたしが別れたなんていったら由里はきっと泣くだろう。それはきっと事実であり、そして由里はそれとは違う理由で今泣いている。わたしはどうしたらいいんだろう。

「…由里」
「…………」
「由里」
「…なあに」
「…泣かんで」

手を伸ばして、由里の綺麗な髪に触れた。由里は少しだけ驚いて、それから困った風に笑った。

「…奏はこんなに優しいのにね」

そういった由里の方が優しいと返したかったが、由里が笑ったことの方がよっぽど重要なことに思えたので、わたしは思わず調子に乗んなと由里の頭を軽く叩いてしまった。





(あ、流れ星)
(へえ、ほんま)
(奏に素敵な彼氏が出来ますように!)
(…わたしんことより自分こと考えぇよ)




方言含めて創作ですすみません…汗
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