「オレって変なのかなあ」
体育の時間にあけたという穴を塞いでいるわたしの隣、ピコピコと休みなく音のするゲーム画面を見ていたしゅんちゃんがぽつりといった。いわれた意味がよく分からなかったので、黙ったまま余りの部分の糸を切る。
しゅんちゃんの動かしていた主人公が敵の光線で倒れると、しゅんちゃんはそれとは違う意味ではーあ、とため息をついた。
「変って…なにが?」
「…学校でさあ」
「うん」
「友達の姉貴の彼氏が、そいつの姉貴殴って怪我さしたって話聞いて。そいつが姉貴のことバカだよなって笑うから」
「うん」
「オレ、万が一ふーちゃんが彼氏に殴られたりしたら、そいつのことぜってぇ許せねえっていったんだよ。オレも殴ってやるって。そしたら、お前ってシスコンなんだなって笑われた」
「…あらあら」
ゲームがスタート画面になっているのに何も動かさないしゅんちゃんを見て、これは随分と落ち込んでるなあと目を瞬いた。しゅんちゃんはいつも楽しそうに話をしてくれて、いつでもにこにこしてて、わたしはそんなしゅんちゃんに元気づけられたり慰められたりすることがしょっちゅうで。元気のないしゅんちゃんはなんだか新鮮で、それからとてもさみしかった。
「…ねえ、しゅんちゃん」
「…なあに」
「わたしね、しゅんちゃんに彼女ができたとき、友達にちょっと言っちゃったんだけどね」
「えー? なんて」
「弟に彼女ができてね、なんだか嬉しそうに話すから、わたしすごくさみしいんだって」
そういったら、しゅんちゃんがびっくりしたようにわたしを見た。そんなしゅんちゃんを見たら少し恥ずかしかったけど、でも嘘をいっているわけじゃないから、それでね、と言葉をついだ。
「その子、うちまで来たこともあるでしょう? すっごくいい子だった。でもしゅんちゃんが取られちゃうの、やっぱりさみしいって」
「…ん、まあ」
「そういったら、友達に、あんたブラコンなんだねって笑われちゃった」
ジャージに通した糸を引っ張りながら笑ったら、しゅんちゃんは少しだけ照れくさそうにそっかあ、と呟いた。スタートのボタンを押して、主人公が走り始めた画面を後ろから見る。
「オレがシスコンで、ふーちゃんがブラコンなら、オレたちいい姉弟だよね」
当たり前のことを再確認するみたいで、それでもしゅんちゃんの笑顔が嬉しくて、わたしはそうだよ、といって結んだ糸の先をぷつりと切った。