ぬけるような青空の日だった。
ほとんど破損している布の間からこぼれる陽光を拾いながら本を読んでいたら、不意にいつもより上機嫌な主の声が自分を呼んだ。顔をあげて待つことしばし、顔をのぞかせた主はやはり声と同じ表情をしていた。


「千種。おいで」


言ったきりで姿を消した主を追って、読んでいた本を閉じてソファに放った。立ち上がると足下で砂利が鳴く。
足音をたどって太陽の光が触れる場所まで出ると、そこで待っていたらしい主がこっちです、と手招きをする。傍まで歩み寄った。風に舞い上がった髪を耳にかけた主は、どこか嬉しそうに目を細めた。


「いい風です」

「…そうですね」

「あれ」


見てください、と主がさした先、ほとんど廃墟ともいっていい建物の出っ張りの下に、ちいさく鳥の巣が作られていた。騒がしく鳴くのを聞くと、雛がいるらしいことが分かる。
しばらく見ていたら、時折ひゅ、と黒い鳥がその巣のなかに入っていくのが見えた。どこかが赤くて、後は白い。背中の黒が光を弾いて、主が少しだけふ、と息をついた。


「…綺麗でしょう」

「はい」


きれい、という言葉の意味はまだよく分からなかったけれど、主がそういうのだからきっとそうなのだろう。あの鳥を見た瞬間に思った気持ちも自分はよく知らない。素直に頷いた自分を見て、主はまた目を細めた。


「あの鳥。燕、っていうんです」

「…つばめ」


新しくひとつ、鳥の名前を覚えた。何も知らなかった自分たちは、主を通して世界を知っていく。


「…お前たちには、もっと広い世界があるってことを、僕が見せてあげませんとね」


世界は自分と犬と主で閉じているわけじゃない。当然分かりきっていることすら、自分にはまだ分かっていなくて。



つばめがまた線を引いた青を見ながら、主は後で犬にも見せてあげましょうと嬉しそうに呟いた。




硝子色の
(主の見せる世界は)
(どこまでも淡く、儚く見えた。)


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