別に何をしに来たというわけでもなかった。ただ単に会いたいと思って自然と足が向いて、近くまで来てしまったのだから会ってしまった方がいいかもしれないと思った。ただそれだけだ。
「…何か用スか」
「んー?」
目の前に立つ、少し小柄にも見える黒瞳を警戒しながら見返した。にこにこと笑う、その中でもただひとつ色を変えない瞳に警戒心がざわついて。
「真ちゃんに会いに来たんでしょ? 黄瀬涼太くん」
「そ、スけど」
「うん。だろうと思った」
ふふ。楽しそうに笑う。コートの中でも変わらない、余裕のある笑み。「あの、」鞄を盾にするようにして持っていた手にちからを込めて、声が震えないようにちょっとだけ息をつめた。
「オレ、もう、行っていいス、か」
「駄目」
「…は、?」
首を傾げたところで、男の両手がオレの肩を思い切り押した。バン、耳に痛い音を拾って、それよりも肩がとかばいかけた手を捕らわれる。ばさり落ちた鞄が、オレと男の間に沈黙と共に横たわって。
「オレは、真ちゃんほど優しくないよ?」
噛み付くように触れた唇は、その声と同じくらい、震えるほどに冷たかった。
平行線に告ぐ
(交わったのはきっと、)