カーナビの電源が落ちたままの車内で、わたしはハンドルをぎりりと回した。
車検を通ったばかりのワゴンRは、ゆるやかに見える坂を迷いもなく進んでいく。わたしの隣でナビをする彼を、わたしはかなり力強く、かつ高い水準で評価したいと思った。なぜなら彼はわたしと似たり寄ったりなほどの方向音痴だったからだ。それでもわたしはそのまま言葉をついだ。次は? そういえば彼は、きっとだとか多分だとかおそらくだとかいうわたしを確実に不愉快にさせるような枕詞は一切使用せず、淡々と答えるのだ。次は右です。
右にハンドルをきる。それはしかし思った通りの道を行かず、けれども確実に目的地には向かっているようだった。わたしは徐々に、このいささか問答のように続く二択を楽しむようになっていた。次は? あくまでも命令であるように彼に告げる。
顔をあげた彼は、やはりなんの躊躇いもなく、左です、と呟いた。