有谷瀬井は、わたしの彼氏。


――…だった。二日前までは。






「…ふみ。まだ泣いてんの」

薄暗い夕暮れが射し込むファストフード店の一角で、わたしは今までにないほどめそめそと泣いていた。正面に座って呆れた顔をしているのは、こんなわたしをいつまでも見捨てないでいてくれている同い年の尋さんだ。クラスメイトになって五年目の尋さんはわたしに対して容赦がない。容赦はないけど愛はある、が尋さんのモットーだ。

「…だって」
「だってなに? あんなふらふらする男のこと、浮気した挙げ句に電話で別れようだなんて、あたしだったらすぐさま家まで行ってぶん殴るね」
「尋さあん」

ジェスチャーつきで怒りを露にする尋さんは、二日前――わたしが瀬井にフラレて――から、ずっと瀬井に対して怒っている。当然でしょっていう尋さんに、わたしはどうしても申し訳ない気持ちになった。だってこれはわたしの問題で、わたしと瀬井との問題で、どうやっても尋さんには関係のないことだ。なのに尋さんの手を煩わせている。尋さんは、わたしがひとりでめそめそ泣くのが鬱陶しいからっていう名目で、わたしの側にいてくれる。尋さんは優しい。

「それをふみったら、いいよ、分かった? 呆れてものも言えないわよ!」
「頭に響きますぅ」
「響きまくって少しはマシになればいいけど」

つんつんとわたしの頭をつつく。尋さんの指はわたしの頭からすっと鼻まで下がって、ぴしりと軽く弾いてからまたテーブルに横たわった。綺麗な指。わたしのまだまだ子供っぽさの残る指に比べて、細くて長くてとても綺麗な。

尋さんはいつか、そんなわたしの思考に梅雨時のてるてる坊主みたいねと囁くようにいったことがある。周りの人は彼にそうなると期待しているのに、彼はさも分かりきっているかのように明日は晴れないと呟くのだ。それが今のわたしとするなら、尋さんはどうしてそんな鬱陶しい思考のわたしを気にかけてくれるのか。…そう問うてもきっと尋さんは、わたしも明日は晴れると信じているからだと笑ってくれるんだろう。


「――…尋さん」
「うん」
「わたし、セイのこと、すきだったんだよ」
「…うん」




きっと有谷もそうだったよ。そういって尋さんは、わたしの涙からわたしを守る傘になった。

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