部活を終えて黒子っちと歩く帰り道、いつもの場所で、今日はなんとなく俺の方から立ち止まった。
「黒子っち、マジバ寄ってかないっスか?」
「今日もですか?」
「うん、なんか寄りたい気分」
ほんとはもっと黒子っちといたいから、なんてそんなことはいえなかった。黒子っちが困ったような顔をするのはわかってたし、何より俺自身が恥ずかしい。
「構いませんよ」黒子っちがいって、俺を残したままマジバの自動ドアをくぐっていった。あわてて後を追い、かけて、黒子っちがレジを無視して定位置の席に向かうのに気づいた。ちょっと首をかしげながら、レジでバニラシェイクひとつ、と注文する。手渡されたそれは冷たくて、それから少しだけ甘い匂いがした。
「黒子っちはバニラシェイクでいいんスよね?」
「はい。ありがとうございます」
「どういたしまして」
手が触れないようにシェイクをテーブルに置いた。それを受け取ってすぐにストローにくちをつけた、黒子っちの嬉しそうな顔が見られただけで上出来だ。やっぱり寄ってよかった。
「黄瀬くんはなにか頼まないんですか?」
「ん?あ、うん。いまお腹いっぱいなんス」
「満腹なのにマジバに寄ろうなんていったんですか。面白いひとですね」
「そ、それって褒めてる?」
「自由に解釈してください」
空色の瞳がふせられる。黒子っちはなにを考えてるんだろう、そんなことを思った。普段は自分でもどうかと思うくらい回る口が、黒子っちを前にするとぴたりとその鳴りをひそめる。喋った方がいいのか黙ってた方がいいのか。「…黄瀬くん?」黙りこんで悶々とし始めた俺を、不意に黒子っちがそう呼んだ。
「あ、な、なんスか?」
「いくらでしたか、と聞いたんですが。どうしたんですか、ぼうっとして」
「ちょっと、考えごとっス。シェイクは俺の奢り」
受け取ってよ、といいながら笑ってみせる。しばらく俺を見て何かを考えていた黒子っちは、そうですね、と呟いてちょっとだけ笑った。
「じゃあ、これは黄瀬くんにお裾分けです」
「へ?」
「一口どうぞ?」
向けられたストローの先。コップを持つ黒子っちの手を、綺麗な水滴が走り抜ける。空色に浮かぶ星に。
「あ、…りがと、っス」
口をつけて飲み込んだ白は、火照った体にいつも以上に冷たく染み込んでいった。
すぐ傍に
(ふ、不意打ちすぎる…!!)