「あ、緑間っち」
水道で適当に汗を流してタオルを片手に体育館に戻ると、チームメイトで『キセキの世代』のひとりでもある緑間っちがフリースローラインからシュートの練習を始めていた。オレがダンク練習をしていたときにはいなかったから、大方トレーニングルームで筋トレでもしていたのだろう。灰色のスポーツウェアが汗で真っ黒に染まっている。
「…黄瀬か。もうあがりか?」
「ん、そうしよっかなって思ってたとこっス。オレのは練習量がものいうようなもんじゃないし」
「人事を尽くせば、天命は練習量などに構わず訪れるものだからな」
「あは、それすっげー緑間っちらしい論理っスね」
「それが真理なのだよ」
無駄なおしゃべりをしながらでも、フリースローラインからだったら緑間っちがシュートを外すことはない。距離のあるシュートが苦手なオレからすればそれこそキセキみたいに、緑間っちが投げたボールは吸い込まれるようにして網をくぐり抜けていく。ガコン、と気持ちのいい音が体育館に響いた。
「緑間っちの練習、終わるまで見ててもいい?」
「帰るんじゃなかったのか?」
「緑間っちのシュートの音、オレ好きなんスよね」
「…好きにしろ」
「ありがとっス!」
いつもは選手にもなれないやつらが座るベンチにそうっと腰をおろした。その間にも緑間っちは着々とシュートをきめて、ゴールまでの距離を徐々にのばしていく。
ガコン、――…ガコン。
距離がのびても位置がずれても、緑間っちからゴールへとのびるその道を、ボールはいくらもあやまたずに駆け抜ける。気持ちよさそうに走っていく。…ベンチに座るやつらが、試合を見ながら目を輝かせる意味が、少しだけわかった気がした。
緑間っちがハーフラインに立つ。ボールを構える。その真剣すぎる横顔に、オレはちょっとだけ嫉妬した。ゴールと緑間っちをつなぐ道が、オレは心底羨ましいと思った。ゴールに対する緑間っちの執着心が、少しくらいオレに向けばいいのに。なんちゃって。
「ねえ、緑間っち」
「なんだ」
「オレも投げてよ」
は?って言いたげな緑間っちの視線、手から離れたボール。
――…それが少しでもずれていますようにと、オレはちいさく神に祈った。
鼓膜に
(…頭でも打ったのか?)
(別に打ってないっスよ!)