からんからん、昔ながらのベルの音が響く。街の静かな一角にある店をくぐったオレは、そこに予想もしなかった人物が佇んでいたのに少しだけ目を丸くした。


「あれ、火神っちもいたんスか」

「いちゃわりーかよ」

「悪いっていうより、似合わないっスね」


そこは古くから、これまた古めかしいクラシックのレコードばかりを集めた小さな個人営業の店だった。並ぶのはクラシック界の巨匠から売れずに散っていったマイナーなピアニストまでを網羅した名前の数々。オレはここで時折、適当にとったレコードを購入していくのが好きなのだ。


「火神っちは、何聞くの?」

「別に。クラシックならなんでも」

「へえ、オレと同じっスね」

「ヴァイオリンよりはピアノの方がいいってくらいだな」

「ええー」


レコードのジャケ裏を見ては出したり戻したりしてる火神っちの横で、オレはかなり不本意な声を出した。


「バイオリンの方が綺麗じゃないっスか」

「はっきりしねえ音って嫌なんだよ」

「繊細っていってほしいっス!」


びしっと指を突きつけてやる。睨むか怒るかと思って見ていたら、火神っちは予想に反してちょっとだけびっくりしたような顔をした。ぱちりとゆっくり瞬きをする。窓から光が入って、赤みがかった髪が綺麗だとオレはその時初めて思った。


「…お前って」

「な、なんスか」


2,3枚のレコードを肩にとん、とのせて、火神っちは苦笑と微笑の間くらいの中途半端な笑顔で。


「ムキになるとかわいいんだな」


今度はちゃんと笑って、火神っちがじゃあな、と去っていく。残されたのはからんからんとまた鳴ったベル、少しだけ乱暴に閉められたドア、まるでタイミングを図ったかのように降り出す雨。



それから、すれ違い様に頭をかすめた温もりのせいで集まった熱を霧散させる方法を必死に探す、オレだった。










(火神っちって)
(は、はずかしい…!!)
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